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【東京エンタメ堂書店】

<江上剛のこの本良かった!>ジャーナリストの視点は?

 ジャーナリストの働きに注目した読み応えのある三冊を紹介しよう。

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◆「文春砲」迫力の最前線

 まずは<1>中村竜太郎著『スクープ!』(文芸春秋、一二九六円)。「週刊文春」の記者を長年務めてきた著者が、膨大なメモを頼りに書き下ろした本。最近は何かと世間を騒がせる「文春砲」だが、その最前線の狙撃手が書いたのだから、迫力は並ではない。

 各章のタイトルには「シャブ&飛鳥」「NHK紅白プロデューサー横領事件」など刺激的な言葉が並ぶ。「週刊誌は、あることないことを大げさに膨らませて書いている」と言う人がいるが、本書を読むと週刊誌記者が日々、地を這(は)うような取材を続け事実を積み上げているのが分かる。

 スキャンダルを暴いた章も興味深いが、著者の持ち味はむしろ人物ものにあるのではないか。特に「独占インタビューの取り方」の章がいい。水泳の金メダル泳者・北島康介選手の父親へのインタビューに成功した際のことが書かれた章だ。

 多くのマスコミが北島選手の実家の精肉店に詰めかけた。ところが父親の取材拒否姿勢があまりにも頑(かたく)なで、いつの間にか著者を残して全員引き揚げてしまった。その時、父親が「お兄ちゃん、あんた最後まで粘るねえ」と声をかけてきたのだ。父親は「お兄ちゃんはこんなくそ暑いのに汗かいてさ、見てたら一生懸命頑張ってるしな。まあ、あとはいい記事書いてくれ」と言う。私はこの場面に不覚にも涙ぐんでしまった。父親の喜びの顔がはっきりと浮かんできたからだ。

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◆脱税に見る人間の業

 <2>田中周紀(ちかき)著『巨悪を許すな!国税記者の事件簿』(講談社+α文庫、九五〇円)は、脱税の実態をくまなく描く。著者は元国税記者。脱税は「国民全員を被害者にする、広範で重大な犯罪なのだ」と断罪した上で、徴税する査察部と脱税者との攻防を味わってもらいたい、という。

 銀座のホステスの脱税を採り上げた「おミズの逃げ道」では、ナサケ(東京国税局査察部の内偵調査で情報を収集する部門)で脱税情報を入手し、それをミノリ(強制捜査を実施する部門)に送り(嫁入り)、実際の査察が行われる。ナサケ、ミノリなどの見慣れない言葉は、東京国税局査察部の隠語だ。

 このホステスは億という収入を隠していたが、バレたきっかけは「タレこみ」。ホステス仲間に密告されたのだ。脱税成功には人間関係が大事なのだと変な感慨を抱く。

 タックスヘイブン(租税回避地)を利用した大型脱税などは、人材派遣業のグッドウィルのクリスタル買収事件やオリンパス粉飾決算事件の裏側に迫った章に詳しい。複雑怪奇な仕組みまで作って脱税したいという人間の業を改めて思い知らされる。

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◆残酷な歴史 足で調査

 <3>清水潔著『「南京事件」を調査せよ』(文芸春秋、一六二〇円)は、いまだに議論が多く、日中間の懸案事項でもある「南京事件」を、自分の足で調査した労作だ。

 著者は事件記者。「俺にとっては右派も左派もない あるのは真実か真実でないかということだけだ」というボブ・ディランの言葉を信条にする。この本では残された資料や元兵士の証言を一つ一つ集め、つなぎ合わせ、事件の実像に迫っていく。日清戦争で活躍した祖父と旧満州(中国東北部)で戦い、ソ連軍捕虜となった父の実像も明らかになる。「南京事件」は著者自身の問題だったのだ。

 そして次第に邦人保護という名目で行われた中国人捕虜の虐殺の事実が明らかになっていく。あまりの残酷さに目をそむけたくなる。しかしそれは虐殺の数の問題ではなく、行為の事実として私たち戦後生まれの日本人が受け止め、戦争の抑止力として機能させなければならないのではないだろうか。 (えがみ・ごう=作家)

 ※二カ月に一回掲載。

 

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