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【東京エンタメ堂書店】

作家の人生相談本

 新聞や雑誌で、根強い人気を誇る欄に「人生相談」があります。今も昔も、悩める読者の声をすくいあげてきました。とりわけ、名のある作家が自らの人生に照らして応じる回答は、ひとつの作品といえるほど読み物として面白いものです。共感したり、突き放したり、はたまたまったく相談に乗っていなかったり…。進学や就職などで悩みも多いこの季節、作家の処方箋に、耳を傾けてみませんか。(中村陽子)

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◆性の悩みに迷回答

 性や身体(からだ)についてのあけっぴろげな質問に、ハードボイルド作家・北方謙三さんが<ソープに行け!>などの迷回答を連発して「伝説」となっている人生相談があります。かつて青年向け情報誌「ホットドッグ・プレス」で連載された相談コーナーです。『試みの地平線−伝説復活編』(講談社文庫、五八三円)は、二〇〇二年まで十六年間の連載のベスト版。

 <どうしたら彼女とキスまでもっていけるか?>など、若い男性たちのナイーブな悩みが、おかしくもあり、いとおしくもあり。北方さんは<どっちに転んでもキスはできる>ような口説き方や、その後の心得を極めて具体的に教えます。インターネットが、今ほど普及していなかった時代に、貴重な助言だったに違いありません。今も、若い読者には参考になることが多そうです。

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◆痛快な突き放し系

 御年九十三歳となった佐藤愛子さんの『役に立たない人生相談』(ポプラ社、一〇八〇円)も、さすがの回答が並びます。たとえば<いい男と結婚したいんです!>という二十代の女性には<結婚に失望がつきものなのは、年をとると腰が曲がり目がかすむのと同じくらい当たり前のこと>とばっさり。<もしも何の失望もない、という奥さんがいたとしたら、その人は見栄(みえ)っぱりの嘘(うそ)つきか、諦念の極みに達した人か、吊鐘(つりがね)のように鈍感か、とにかく特別な人>だと断言します。

 どちらかというと「突き放し系」の答えが多いのですが、現実の厳しさを身もふたもなく指摘しながら、それを笑い飛ばそうとする痛快さがあります。折り合いをつけながら、しっかり生きなくてはという気持ちが湧いてきます。

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◆踏み外してなんぼ

 人生相談は、回答者の人間観がはっきりとにじむものです。中でも強烈な個性に圧倒されるのが、車谷長吉(くるまたにちょうきつ)さんの『人生の救い』(朝日文庫、六四八円)。遺伝性の蓄膿(ちくのう)症で子供のころから鼻呼吸ができなかったこと、貧乏が好きで、月収二万円で駅で寝る暮らしもしていたこと…。車谷さんの実体験から目が離せません。<口汚い妻にうんざりしている>という質問者には、離婚した場合の孤独を考えてから決断するよう説き、自身は四十八歳で結婚するまでは夜が寂しくて木目込み人形を抱いて寝ていたと告白します。

 回答には「人生を踏み外さないように」という観点が全くありません。<生が破綻した時に、初めて人生が始まる>という信念で貫かれているのです。教え子の女子高生にときめいてしまう四十代の教師には<恐れずに、仕事も家庭も失ってみたら>と勧めています。

 最後まで読むと、自分が味わった挫折も、それこそが大切な体験だと認めてもらえたような不思議な癒やしがもたらされます。 

 

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