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【東京エンタメ堂書店】

<小林深雪の10代に贈る本>雪のように降り積む言葉

 「朝、目覚めた時、世界中が白い雪でおおわれていたら、どんなに楽しいだろう。」。キーツの絵本『ゆきのひ』の一節です。冬のハイライトはやっぱり雪。雪の本を集めて、あなたの本棚にも雪を降らせてみませんか?

 アンデルセン『雪の女王』や宮沢賢治『雪わたり』など、幼い頃から、タイトルに「雪」がつく本はつい手に取ってしまいます。自分の名前にも雪がついているからでしょうか。今月は、しんしんと降り積もる雪のように、言葉が心にしみ入る雪の本をご紹介します。

◆なんのために生まれてきたのか

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 まずは、雪の姿に託して人の一生を綴(つづ)る<1>ポール・ギャリコ『雪のひとひら』(新潮文庫、四九七円)。雪のひとひらが空の高みで生まれ、空から落ちるところから物語は始まります。

 地上に降りた雪のひとひらは、子どものソリを滑らせ、雪だるまになり、春がきて水となり、野の花を潤し、小川を下り、魚を泳がせ、湖に出て、雨のしずくと出会い、恋に落ちます。そして、新たな生命の誕生を経て、さらに大河を下り、海に出て、船を走らせ、火事を鎮めます。

 そうやって、つつましく誠実に、ささやかに誰かのために生きてきた雪のひとひらにも最期の瞬間が訪れます。いったい、自分はなんのために生まれてきたのか?

 その刹那、雪のひとひらは、ある言葉を聞き、生きる意味を悟るのですが、この最後のくだりには、本当に心を揺さぶられます。美しい一冊です。

◆様々な職業 30の「おとぎ話」

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 <2>いしいしんじ『雪屋のロッスさん』(新潮文庫、品切れ)。

 雪屋というのは、人工で雪を作る仕事のこと。ロッスさんは、トラクターに似た造雪機であちこちの街をまわり、たちまちあたり一面を銀世界に変えてしまいます。大晦日(みそか)、誕生日、スキー大会、クリスマス。どこでもみんなが大喜びです。ところが、ある夜のこと、「雪なんぞみな溶かしちまえ!」と雪を憎む男があらわれて……。

 表題作のほか「調律師のるみ子さん」「象使いのアミタラさん」「神主の白木さん」など、様々(さまざま)な職業を持つ主人公の三十の短編が収められていて、どれもおとぎ話のような不思議な世界を堪能できます。

 ケストナーの『エミールと探偵たち』を手に取ったら、そこに、もう今はない実家の電話番号が鉛筆で書かれていて――という「図書館司書のゆう子さん」も好きな一編。

◆日常の中にある神秘・美

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 そして、その人工雪を世界で初めて作り出すことに成功した物理学者のエッセイ集<3>中谷宇吉郎『雪は天からの手紙』(岩波少年文庫、七七八円)は、科学が苦手な人にこそ、読んでほしい一冊です。

 詩情あふれるタイトルは、「雪の結晶という手紙を読み解けば、はるか上空の温度や湿度がわかる」という意味です。博士は、雪の結晶の美しさに魅せられ、雪、氷、霧、雷、霜柱など雪氷学の分野を切り開いてきましたが、「無邪気で純粋な興味が一番大切。良い研究は深刻な表情をしていなければできないと思う人があったら、それは大変な間違えである」と書いています。

 また、「一杯の茶碗(ちゃわん)の湯の中に全宇宙の法則がある」という一文には、ハッとさせられます。茶碗の湯気が渦を巻いて回りながら上る、これが大規模になると竜巻に。茶碗の底に見えるゆらゆらとした光の紐(ひも)、これはかげろうと同じ。など、日常の中にある不思議や神秘や美に、感じ入ることのできる科学者の豊かな感性に、拍手を送りたくなります。

 そんな中谷博士などの科学者たちを題材にした漫画、高野文子『ドミトリーともきんす』も副読本として、ぜひ!

 

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