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【東京エンタメ堂書店】

著者・三上延さんに聞く「ビブリア」 

 古書に隠された謎を解くミステリー仕立ての小説シリーズ『ビブリア古書堂の事件手帖(てちょう)』(メディアワークス文庫)が、先月発売の第七巻で完結した。古書をめぐるうんちくや人間模様は読者を引きつけ、累計発行部数は六百四十万部を超える。著者の三上延(えん)さん(45)に、六年がかりの執筆を終えた今の思いを聞いた。 (岩岡千景)

7巻で完結したビブリア古書堂の事件手帖

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◆太宰・司馬…人間くささ丁寧に

 舞台は、北鎌倉の古書店「ビブリア古書堂」。美しく若き店主の篠川栞子(しおりこ)は、本が読めない体質の青年店員・五浦大輔(ごうらだいすけ)とともに、客が持ち込む古書の謎を解き明かしていく。「人の手を渡った古い本には、中身だけではなく本そのものにも物語がある」。第一巻序章に記されたそんな言葉を裏付けるかのように、シリーズでは古書と人のドラマを丁寧につづってきた。

 夏目漱石『それから』や太宰治『晩年』など、扱ってきたのは実在する名作の数々。「ある程度知識を頭に入れて、そこから古書に即したストーリーを考えていく感じですね。長編で一人の作家を扱う場合は全集を買うところから入るんです」

 作家について調べていて「人となりがみえた」と感じることもあったという。「太宰治について調べている時、学生時代のノートの復刻版を手に入れたんです。そこに小説の構想とかいろんな落書きがしてあって、俺は作家になったらこんなサインするんだっていう練習もしてる。今でいう中二病(十四歳ごろにありがちな自己愛に満ちた空想や嗜好(しこう))みたいな感じ」

 そうした作家の人間くささは物語にもちりばめられている。「僕が面白がってるのもそういう部分なんですよね」。司馬遼太郎が推理小説『豚と薔薇(ばら)』のあとがきに「書けといわれて、ようやく書いた」と吐露していること、宮沢賢治が心象スケッチ『春と修羅』を出版後も推敲(すいこう)し続けたこと…。

 江戸川乱歩を題材にした第四巻では、栞子が乱歩について「人気作家だったにもかかわらず、異様なほど自作への評価が低かった」「嫌悪感に苛(さいな)まれては断筆し、放浪の旅に出ていました」などと大輔に説明。関西への旅行の後に訪れた名古屋での出来事が、謎解きのカギとして提示される。

 ほかにも、シリーズでは手塚治虫や寺山修司作品など幅広いジャンルを扱ってきた。ロバート・F・ヤングの『たんぽぽ娘』や、司馬遼太郎が福田定一の本名で出した『名言随筆 サラリーマン』など、復刊された作品もある(『名言−』の復刊タイトルは『ビジネスエリートの新論語』)。

 最終第七巻は、劇作家ウイリアム・シェイクスピアの希少本をめぐる物語。「栞子さんと果てない舞台」の副題は「世界が舞台で人間はそれを演じる役者だ」というシェイクスピア戯曲にたびたび出てくる考えにからめ「物語はひと区切りだけれど二人の人生は続いていく」との意味も込めた。

 海外古典の難物を相手に、準備も執筆も「時間がかかった」という。けれども、それまで謎だった栞子の母の失踪のわけと本の謎解きを見事にからませ、圧巻の展開の末に物語をまとめ上げた。

 あとがきには「これ以上もうなにも思いつかない」などと弱音を日記にいくつも書いた完結までの苦労もつづった。「書けないのにはたいがい理由があるので、そんなときはよくホワイトボードに問題点を書き出してます。どこを解決すればいいのかを詰めて、資料をまた読む。調べるのは本当に面白いんですよね。だからよく、原稿が書き上がった後も資料を買って調べてましたね」

 今後、実写とアニメで映画化される。番外編なども書いていきたいという。

 

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