東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > Chunichi/Tokyo Bookweb > 東京エンタメ堂書店 > 記事一覧 > 記事

ここから本文

【東京エンタメ堂書店】

映画「人生フルーツ」 「修一さんと英子さん」の物語

 こんな年の取り方、死に方をしたい−。そう思わせる映画が、東京都の小さな映画館「ポレポレ東中野」など各地で公開されています。90歳と87歳の夫婦の物語「人生フルーツ」です。その夫婦の暮らしを紹介する本も出ています。その中から4冊を紹介します。 (岩岡千景)

 「風が吹けば、枯葉(かれは)が落ちる。枯葉が落ちれば、土が肥える。土が肥えれば、果実が実る。こつこつ、ゆっくり。人生、フルーツ」。そんな樹木希林さんの味わい深い語りで、映画は建築家の津端修一さんと妻の英子(ひでこ)さんの日常を紹介していきます。

 修一さんは四十年前、愛知県春日井市の「高蔵寺ニュータウン」の一角に、敬愛する建築家アントニン・レーモンドの自邸に倣った平屋の家を建てました。その家は雑木林の緑に囲まれ、約二百坪の庭では七十種の野菜と五十種の果物を二人で育てています。

 タケノコ、ジャガイモ、甘夏、さくらんぼ…。新鮮な食材をごちそうに変え、刺繍(ししゅう)や機織りなども上手な英子さん。まめに畑を耕したり、絵入りの手紙を書いたりする修一さん。夫婦の丁寧な暮らしぶりと、交わされる言葉や笑顔。何より、二人の間に漂う穏やかな雰囲気が、見る者の心をとらえ、暮らしや人生へのさまざまな思いを呼び覚まします。

写真

 そうした「簡素だけど優雅」な四季の生活を、きれいな写真もふんだんに入れてまとめた本が<1>『あしたも、こはるびより。』(主婦と生活社、一五一二円)です。

 夫婦の家にはあちこちに、修一さん手作りの「伝言板」があります。「ガスがついてますよ 忘れないで!」「お風呂 忘れないで!」…。それは「夫婦の間にすきまをおくための工夫」だと、この本で修一さんは説明します。英子さんも「言う方も言われる方も、嫌な思いをしなくてすむでしょ」と。「けんからしいけんかって、したことない」という二人の知恵が、そこにあります。

 「お互い、何事をも強要しない」のも、暗黙の了解なのだそう。野菜が苦手な修一さんに、英子さんは無理には食べさせず、栄養素を補う工夫として朝、野菜ジュースを出します。その作り方なども載っています。

写真

 続編が<2>『ひでこさんのたからもの。』(同)。映画では英子さんお手製のプリンやコロッケなどがとてもおいしそうなのですが、それらの作り方はこちらでわかります。

写真

 やはり、夫婦の生活を文と写真で紹介するのが<3>『ききがたり ときをためる暮らし』(自然食通信社、一九四四円)。暮らしや人生に対するそれぞれの考えにも多くのページを割いています。夫婦には二人の娘さんがいますが、「物を買うときは次の世代に伝えられる、いいものを」というのが英子さんの考え方。「自分の手で暮らしを見据えたストックをつくること。それが<ときをためる>ということです」。畑の土作りを丹念にするのも、そうした考えからです。

写真

 実は、修一さんは二〇一五年六月二日に亡くなりました。「ひとりになって寂しいというより、むなしい」と英子さんがつぶやく映画の場面では、六十五年連れ添った修一さんを失った悲しみがわがことのように胸に迫ってきます。<4>『ふたりからひとり ときをためる暮らし それから』(同)には、その前後の暮らしと思いがまとめられています。

 いずれも、修一さん、英子さんの共著。あなたの心にきっと何かを投げかけてくれる、映画と本です。

 

この記事を印刷する

PR情報