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【東京エンタメ堂書店】

<小林深雪の10代に贈る本>新学期から始まる小説

 4月、新学期。新しい環境には、もう慣れましたか? 新しい場所、新しく出会う人たち。期待と不安で胸がいっぱい。でも、それは、みんな同じ。中学、高校、大学、それぞれの4月、新学期から始まる小説3冊を。

◆「電車で読書」恋の始まり

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 まずは中学入学式の朝から始まる物語。<1>桜庭一樹『荒野(こうや) 12歳 ぼくの小さな黒猫ちゃん』(文春文庫、四七三円)

 「今日から中学生。ちょっと大人」。荒野は、十二歳。メガネをかけた地味で奥手な女の子。人気恋愛小説家の父親と家政婦さんと三人暮らし。

 冒頭、荒野が閉まる電車のドアに制服を挟まれ、文庫本を読んでいた少年に助けられるシーンが印象的。少年が読んでいた本は、五木寛之『青年は荒野をめざす』。荒野は、そこに自分の名前を発見し、その男の子を意識し、気になる存在になっていく。

 電車の中で、スマホじゃなくて文庫本を持っている十代は、絶対に目立つしスマート。ぜひ真似(まね)してほしい。明日、恋が始まるかもしれませんよ。

 中学の新しいクラスでの友情や初恋、そして、家族のこと。思春期の健気(けなげ)で危なげな、ゆれる感情が鮮やかに描かれる三部作の一作目。

◆「伝説」の年、謎めく転校生

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 一月に『蜜蜂と遠雷』で直木賞を受賞した恩田陸さんのデビュー作。<2>恩田陸『六番目の小夜子』(新潮文庫、五九四円)

 高校、四月、新学期の朝から物語が始まります。

 その高校には十数年間にわたり、奇妙な言い伝えがあり 三年に一度、「サヨコ」と呼ばれる生徒が、何者かによって選ばれ、その使命を果たさなければならない。そして、今年は、「六番目のサヨコ」が誕生する年。そこに、謎めいた美しい転校生がやってくる。しかも、彼女は十二年前事故で亡くなった「サヨコ」と同姓同名だった。

 読み出した途端に、「サヨコ」の謎にひき込まれて、じわじわと襲ってくる恐怖に背筋を凍らせながら、最後まで一気に読んでしまいます。

 真紅(しんく)のバラ。漆黒の髪。黒い石碑。赤いランプ。黒い野犬。血だらけの河原。学校の火事。この小説では、赤と黒、その二色が効果的に使われ、読み手に鮮烈なイメージを残します。特に学園祭の演劇シーンのあの緊張感を、文章で味わってみてください。

◆青春時代、最大の贅沢とは

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 大学一年の四月から始まる<3>伊坂幸太郎『砂漠』(新潮文庫、八五三円)。

 悪ふざけが通用するのは「砂漠」に出るまで。大学は、社会という「砂漠」に囲まれた「オアシス」である。

 主要登場人物は仙台の国立大学に通う男女五人。始まりはクラスの新歓コンパ。クールな北村くん、おっとりしているのに超能力者?の南さん、孤高の美女、東堂さん。軽い鳥井くん。そして、パンクロックが好きな西嶋くん。

 「賢いふりしてバカ見ることを恐れて何もしないバカばっかり」「今、目の前で泣いている人を救えない人間がね、明日、世界を救えるわけがないんですよ」と、名言連発、空気を読まない西嶋くんが、かっこ悪いけど、かっこいい。

 社会を変えたいと熱く思いながら、明日、殺処分になる犬一匹助けられないと深く悩む。自意識過剰で不機嫌で苛立(いらだ)つ青春時代は、身に覚えがありすぎて、胸がうずきます。

 一人でいる方が楽だし、人とつき合うのは面倒。だけど、社会という「砂漠」に出る前にバカをやって仲間をつくれ! そしたら、その気になれば「砂漠」に雪を降らすことだってできる。だって、「人間にとって最大の贅沢(ぜいたく)とは、人間関係という贅沢」なんだから。

 十代のうちに読んでほしい三冊です。もちろん、元十代もぜひ!

 *毎月第四月曜掲載。

<こばやし・みゆき> 児童文学作家。『作家になりたい!』(講談社青い鳥文庫)発売中。

 

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