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【東京エンタメ堂書店】

<江上剛のこの本良かった!>トランプ政権 なぜ生まれた?

 アメリカにトランプ大統領が誕生して100日余。こんなに落ち着かない毎日になるとは想像しなかった。北朝鮮のミサイルがいつ飛んでくるか分からない不安で満開の桜も楽しめなかった。フランスでは極右政党が勢いを増し、欧州も先行き不透明。トランプ大統領のツイッターに世界が一喜一憂する。どうなってしまうのこの世界は?

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◆情報操作だけで○兆円

 こんな物騒な大統領がなぜ誕生したのかを探るために読んだ本。

 <1>小林由美著『超一極集中社会アメリカの暴走』(新潮社、一六二〇円)。著者は、現在のアメリカの富の集中状況を鋭くえぐる。0・1%の富裕層の人間が、下位90%以上と同量の資産を所有しているのだ。同書によると、トップたった0・01%(一万六千五百世帯)の二〇一四年平均年間所得はなんと二千九百万ドル(二十九億円)! 嘘(うそ)っ!って叫びたくなる。彼らの所得は一九八〇年代以降に急増。格差がなぜこんなにも拡大していったのか分かりやすく解説している。

 特に興味深い指摘は、シリコンバレーの成功者たちについてだ。フェイスブックなどの成功者たちは、実は何も造り出していない。情報を操作するだけで何兆円もの資産を造り上げたのだ。配車サービスのウーバーなんてタクシー一台も持っていないし、インスタグラムって写真だけだぞ! データはモノと違って減ることはない。在庫負担もない。設備投資も不要。ユーザーから無料でデータを集め、それが利益を生む。くっそ! そうだったのか。絶望的な気分になるが、最後まで読んでしまうディストピア(暗黒世界)評論だ。

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◆働いても働かなくても

 これをさらに詳細に分析したのが、<2>ロバート・B・ライシュ著『最後の資本主義』(東洋経済新報社、二三七六円)。著者はクリントン政権で労働長官を務めた人物。英語タイトルは「SAVING CAPITALISM」だから「資本主義を救う」意味を込めて書かれている。アメリカの資本主義が、今や不公正極まりないルールに支配され、大企業の重役、ウォール街の銀行家などは、自分に有利になるルールを作り上げているから高額の報酬を得るのだという。ルールから外れている労働者は、真面目に働いてもその労働の価値にふさわしい給料は支給されない。ああ、絶望だぁ。

 興味を引くのは「ノンワーキング・リッチ(働かないお金持ち)」が増えているという指摘だ。アメリカの最も裕福な上位十人のうち六人が莫大(ばくだい)な遺産を相続した人で、働かなくても大金持ちであり続けられる。金融資産や不動産資産が利益を生み続け、それを政治などに投資するため、自らに有利になるルールを作ることができるからだ。著者はこのルールを破壊するためには、労働者が団結し、富裕層に対する拮抗(きっこう)勢力を作らねばならないと訴える。

 アメリカの忘れられた人々と言われる貧しい白人たちは、こうした格差を作るルールを破壊してほしいと願い、トランプを大統領に押し上げたのだが、彼がやろうとしている税制改革などは、大企業や金持ち優遇ではないか。

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◆単純明快 扇動者の言葉

 <3>開高一希著『アメリカはなぜトランプを選んだか』(文芸春秋、一二九六円)は、トランプの演説をまとめたもの。最初の章の出馬宣言を見ると、トランプの全てが理解できる。彼はとにかく偉大な大統領になりたいのだ。そして非常に頭脳明晰(めいせき)。アメリカが直面する諸問題を分かりやすく、端的に指し示す。処方箋の具体策には欠けるが、国民を興奮させるには十分だ。トランプのスピーチ術に対する興味深い指摘は、形容詞がポジティブ(肯定的)かネガティブ(否定的)かで、中立的な言葉がないこと。これは聴衆に非常に分かりやすい。要するにアジテーター(扇動者)なのだ。そういえば日本でも、首相が「郵政民営化にイエスかノーか」と迫る単純明快さで国民を興奮させたことがあった。

 願わくば、トランプ大統領には、あまりの分かりやすさで格差に不満を抱く国民を扇動して、戦争に突き進まないでほしい。経済学者トマ・ピケティは、現在の格差を解消するには富裕層への課税強化が必要だと訴えたが、戦争によって格差が縮小されるとも示していたっけなぁ。それだけは願い下げだ。

  *二カ月に一回掲載。

<えがみ・ごう> 作家。『怪物商人 大倉喜八郎伝』(PHP文芸文庫)発売中。過労死を扱った『企業戦士』(講談社文庫)も好評です。

 

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