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【東京エンタメ堂書店】

あすなろ書房・山浦真一編集長 明日はヒノキになろう

 弊社のロングセラーは「木」とともにある。最初のスマッシュヒット『木を植えた男』は、南仏の荒地に一人黙々と木を植え続け、森を蘇(よみがえ)らせた男を描いた感動的な物語絵本。僕はこの本をつくったことで認められ、編集部を任されるようになった。

 その十年後に出版した『いろいろ1ねん』は、一本の木とふたごの子ネズミの一年間を描いた絵本。巨匠レオ・レオーニ後期の傑作だ。これは、谷川俊太郎さんに初めて翻訳をお願いした記念すべき一冊。

 そしてその十年後。他社から刊行されていたシルヴァスタインの『おおきな木』の日本語版権が空き、弊社に再刊の機会がめぐってきた。翻訳者の遺族の許諾が得られず、村上春樹さんに新たに翻訳してもらった。

 おおきな木は、少年に惜しみなくすべてを与える。読む人によって、感想はわかれる。木の無償の愛に、自分の人生を重ねるシニア世代からの感想が多い。

 発売以来、七年が経(た)つが、毎年五万部近くを重版し、あすなろ増刷記録を更新中。

 そしてもう一冊。公開中の映画『怪物はささやく』の原作で、イチイの木が登場する本。これは二〇一一年、東日本大震災直後のボローニャブックフェアで紹介され、即、出版を決めた本。イギリスの出版社ウォーカーブックスのおなじみの担当キャロラインが、「人生で一番感動した本なの。最高傑作よ!」と、いつになく熱い調子で語るのに驚き、そして何より迫力あふれるイラストに圧倒されたのが、決め手となった。

 先日、ひと足早く映画を観(み)た。僕は映画では泣けないタチだけど、まわりでは、人がいっぱい泣いてたよ。

 ところで、弊社の名前はあすなろ書房。「あすなろ」は、ヒノキ科の常緑高木。創業者が、「明日はヒノキになろう」の意をこめて名づけた。意識して木の本をつくってきたわけではないが、木の本ばかりヒットするのは、もしかしたら宿命だったのかもしれない。

 『木を植えた男』から三十年。当時、会社の経営は傾いていて、負の遺産ばかり引き継いだような気がしていた。でも、先代を亡くしてから、本当は数字にならない「よきもの」をたくさん伝授されていたのを、実感するようになった。がむしゃらで、無謀な若人だった僕に、さまざまな知恵を授けてくださった先輩たちに、今はお礼をいいたい。

◇お薦めの3冊

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◆身近な人、亡くしても

 <1>エリシャ・クーパー作、椎名かおる訳『しろさんとちびねこ』(1404円) 身近な人が亡くなったら、残された者は悲しい。でも、その人が教えてくれた大切なことは、知らぬ間に自分の一部になっていて、それはきっと次の世代にも受け継がれてゆく。愛らしい絵の奥に「生きること」の真理が見える、深い深い絵本。今の僕の心境は、年齢のせいばかりでなく、この本との出会いのおかげかも。

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◆まぶしい!夢の第一歩

 <2>大竹英洋著『そして、ぼくは旅に出た。』(2052円) 憧れの写真家に会うため北米ノースウッズへ! 自然写真家への第一歩となった旅を振り返るノンフィクション。誠実さあふれる文章が、僕にはまぶしい! 人生の岐路に立ち、迷っている人に特にお薦め。きっと道が見えてくるよ。

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◆何歳でも遅くない

 <3>オリバー・ストーン&ピーター・カズニック著、S・C・バートレッティ編著、鳥見真生訳『語られなかったアメリカ史(1)(2)』(各1620円) 歴史に「もし」はタブーだが、トルーマンではなくヘンリー・ウォレスが大統領になっていたら、原爆は投下されなかった!? ベトナム帰還兵である映画監督O・ストーンならではの歴史書。学校の勉強は嫌いだったが、今は学ぶのが楽しい。だいぶ遅咲きだけど…。

◆筆者の横顔

 <やまうら・しんいち> 本当はカメラマンになりたかった。大学卒業後、著名ファッションフォトグラファー(特に名を秘す)に弟子入りし、アシスタントとして働くも、あまりのダメダメぶりに毎日叱られ、挫折。撮るのはやめたが、今も写真は好き。59歳。

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