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【東京エンタメ堂書店】

<江上剛のこの本良かった!>「共謀罪」法が成立 監視国家の怖さを知る

 共謀罪の趣旨を含む「テロ等準備罪」を新設する改正組織犯罪処罰法、いわゆる共謀罪法が強行採決で成立した。思えば2013年に特定秘密保護法が同じように強行採決で成立し、私たちは政府の営みが秘密のベールに隠されるのを許してしまった。今度はそれを暴こうとすると共謀罪で逮捕されることとなるだろう。かくして私たちは知る権利や言論の自由を奪われ、政府に一方的に監視される恐れが強くなった。今回は監視もの3冊。

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◆前川事件を予言?

 <1>太田愛著『天上の葦(あし)』(角川書店、(上)(下)各一七二八円)。この本に出会えて正直、幸せだ。こんなにエンターテイメント性に富み、かつ腹にズンとくる重いテーマの小説なんて、そうあるもんじゃない。著者は人気テレビドラマ「相棒」の脚本家。面白いのも当然か。

 物語は、渋谷のスクランブル交差点で正光(まさみつ)秀雄という老人が右腕をゆっくりと持ち上げ蒼穹(そうきゅう)の一点を指さし、息絶えた事件から始まる。なぜそんな行為をして死んだのか。謎を解くために二人の興信所職員と仲間の警察官が活躍する。

 正光の行為は、国民をコントロールしようとする国家的陰謀に警鐘を鳴らすものだった。そのことを暴こうとする三人に、容赦なく襲いかかる公安警察の暴力。彼らは国家の陰謀を食い止めることができるか。戦争中の言論統制の恐怖がミステリーの重要な要素となっており、表現や言論の自由の大切さをあらためて思い知らされる。

 ところで、政府を揺るがしている加計学園問題で、「行政がゆがめられた」と告発した文科省の前事務次官前川喜平氏の出会い系バー通いの記事が読売新聞に掲載された。記事は、前川氏の人格を貶(おとし)めることで告発内容の信頼性を失わせようとしたものだと言われた。

 政府に都合の悪い人物を葬り去るにはセックススキャンダルが一番効果的だ。実は本書の中で、まるで前川氏の事件を予言したかのような事態が進行する。政府の真実を暴こうとする人気ジャーナリストを社会的に抹殺するために、政府が彼のセックススキャンダルを捏造(ねつぞう)するのだ。私はその予言的な内容に心底、恐れおののいている。

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◆新聞記者の苦闘

 <2>小笠原みどり著『スノーデン、監視社会の恐怖を語る−独占インタビュー全記録』(毎日新聞出版、一五一二円)。NSA(アメリカ国家安全保障局)の職員であったエドワード・スノーデンがNSAの盗聴の記録を内部告発し、世界に衝撃を与えた。彼は今もロシアに亡命中だ。本書は彼のインタビュー記録だが、本当の面白さは著者がインタビューにこぎつけるまでの悪戦苦闘にある。

 著者は大学を卒業し、朝日新聞記者としてジャーナリスト人生をスタートする。そこで国家による監視に興味を覚え、追及していく。政府は安全保障の名目で通信傍受法、安全保障関連法、特定秘密保護法などを次々と成立させていく。著者は監視社会の実現に抵抗するべく取材を進めていたが、驚くべきことに、朝日新聞でさえ自由に政府批判記事が掲載できなくなっていったようだ。著者は疲れ果てアメリカ留学を決意するが、退職に追い込まれてしまう。なんとか留学を実現させた著者は、多くの仲間の支援を得て、スノーデンのインタビューにこぎつける。

 スノーデンは、日本は世界で最もアメリカに従順な国で、特定秘密保護法だろうが共謀罪法だろうが命じられるままに成立させ、ひょっとして改憲までやってのけると突き付ける。かつて吉田茂がアメリカから憲法九条を変えよと命じられ、抵抗したという事実の重さをあらためて思い浮かべた。

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◆民主主義の危機

 <3>エドワード・スノーデンほか著『スノーデン 日本への警告』(集英社新書、七七八円)。本書は二〇一六年六月に東大で行われたスノーデンのネットインタビューとシンポジウムの記録だ。主催者は、日本はアメリカと同程度の監視社会になるようにアメリカから求められていると認識。監視社会がいかに民主主義の敵かを告発したスノーデンの言葉に耳を傾けなければならないという。

 テロ集団など特定対象の情報を収集する「ターゲットサーベイランス」と、私たちの携帯電話通話記録やSNSでのやりとりも全て含めた「メタデータ」の収集は、今や普通になっているという。悪いことをしていないから大丈夫だとは言えない。もしも友人とのSNSで政府批判をし、それを政府が監視していたら、私たちは萎縮しないだろうか。それが内心の自由を侵されるという、まさに民主主義の危機なのだ。

 ジャーナリストの青木理氏は最後に「一番強力な(政府)監視機関はマスメディアなのだという言葉を胸に刻んでおきたい」と述べる。今日ほどジャーナリストの矜持(きょうじ)が問われている時代はないだろう。

 *二カ月に一回掲載。

 

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