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【東京エンタメ堂書店】

奥深き将棋の世界へ

 デビューから破竹の29連勝を飾った藤井聡太四段の活躍で、将棋ブームが到来したようです。私の周りでも「子どもが始めた」「ネットで対局を見る」という声を聞きます。最近、将棋に関心を持った人に読んでほしい3冊を紹介します。 (文化部・樋口薫)

◆休日は?お給料は?

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 将棋界はちょっと特殊な世界かもしれません。百六十人のプロ棋士がタイトルを目指し、ひたすら勝負に明け暮れます。対局がない日は何をしているんだろう、お給料はどうなっているの。そんな疑問に答えてくれるのが、現役棋士である青野照市九段の<1>『プロ棋士という仕事』(創元社、一五一二円)です。

 「若手でも活躍すれば年収一千万円以上」「退職金はほんのわずか」「対局中、長考するのは左脳と右脳が戦っているとき」。将棋担当の私も知らなかったトリビアが満載で、これ一冊で将棋界に詳しくなれること請け合いです。将棋の上達法やプロになる道筋などの解説もあり、お子さんやお孫さんが将棋好きという方にもお薦めです。

◆夢破れた少年の運命

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 大崎善生(よしお)さんのノンフィクション<2>『将棋の子』(講談社文庫、六五九円)は、落涙必至の一冊です。藤井四段が史上最年少の十四歳二カ月で突破したプロ養成機関「奨励会」には、二十六歳までにプロ(四段)になれなければ退会、という鉄のおきてがあります。本書の主人公は、その壁を越えられずに夢破れていった少年、青年たちです。

 舞台は一九八〇年代。羽生善治三冠を筆頭に「羽生世代」と呼ばれた天才集団がプロへと駆け抜けていったその陰で、一人の奨励会員が過酷な運命に翻弄(ほんろう)されます。悲嘆、挫折、転落の果てに、それでも彼はこう語ります。「将棋がね、今でも自分に自信を与えてくれているんだ」

 日本将棋連盟に約二十年勤め、奨励会員たちの戦いを間近で見続けた大崎さんだから描けた物語です。彼らに寄り添うまなざしの優しさが光ります。大崎さんのデビュー作で昨年映画化された『聖(さとし)の青春』も、早世した天才棋士の人生を追った感動作。未読の方は併せてどうぞ。

◆元記者が描くリアル

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 同じく元奨励会員の奮闘を描きつつ、楽しく読める小説が、塩田武士(しおたたけし)さんの<3>『盤上のアルファ』(講談社文庫、六九一円)です。三十三歳、無職の元奨励会員・真田が、新聞記者・秋葉の協力を得て、もう一度プロを志すという物語。年中タンクトップ姿で憎まれ口をたたく、真田のキャラが強烈です。

 作中では、実在するタイトル戦「女流王位戦」の様子が描かれます。実は、著者の塩田さんは神戸新聞社で将棋担当記者だった経歴の持ち主。本紙と共同で主催する王位戦、女流王位戦の運営や取材にも当たったそうで、リアルな描写にも注目してください。

 ある登場人物が、将棋と囲碁の「負けた後の感情の違い」をこう説きます。「将棋は王さんの首を取られたら負け。つまり、ゼロか百か。一方の囲碁は、陣地を奪い合うから、六十対四十で負けても、四十取れた分の満足感は残る」。だから角が立たないよう、政財界の人は将棋でなく碁を打つのだと。なるほど、一理あるかもしれません。

 将棋はただのゲームでなく、伝統文化の側面もあって、知れば知るほど深く楽しめます。ぜひ奥深い世界へと分け入ってみてください。

 

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