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【東京エンタメ堂書店】

漫画やアニメが映す戦争

 8月が巡ってきました。終戦から72年。今回は戦争をテーマにした漫画など3作をお届けします。「漫画は読まない」という人のためにもオーソドックスな作品を選びました。 (文化部・森本智之)

◆独裁者に秘密 交錯する運命

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 <1>『アドルフに告ぐ』(講談社、全三巻、九一八〜一〇〇四円)は漫画の神様・手塚治虫の最高傑作といえる戦争ミステリーです。

 戦時下の神戸に暮らすユダヤ人の少年カミルと、その親友でドイツ領事の息子カウフマン、そしてナチスを率いた独裁者ヒトラー。アドルフの名を持つ三人の運命が、戦争をきっかけに交錯します。

 「ヒトラーはユダヤ人だった」という筋立ての下、ホロコーストやゾルゲ事件など史実を絡ませながら物語は展開します。精神科医の斎藤環さんは手塚作品の特徴を「ポリフォニー(多声音楽)」と表しましたが、重層的な物語構成はまさにオーケストラ。初めて読んだ中学一年の時、子供心に印象的だったのは戦後の描写です。ユダヤ人のカミルと元ナチスのカウフマンの幼なじみ二人は、イスラエル・パレスチナ紛争で相まみえます。被害者と加害者の立場を逆転させて。

 全編を通じいろんな登場人物が理不尽に殺されます。ショッキングな描写もあります。そこで手塚が訴えたかったものは何でしょうか。大人も子供も楽しめる作品です。

◆反旗を翻した自衛官の戦い

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 <2>かわぐちかいじ『沈黙の艦隊』(講談社、全三十二巻、品切れ、電子書籍あり)も超有名作です。秘密裏に建造された日本初の原子力潜水艦。その試験航行中に乗組員となった海上自衛官たちが日本政府に反旗を翻し、世界を相手に独立戦争を始めます。

 自衛隊の海外派遣に道を開いた国連平和維持活動(PKO)協力法の成立から今年で二十五年。本作は同法成立前後に描かれました。日米安保、核の傘、自衛隊。今もなお私たちの目の前にあり続ける問題がテーマです。

 私がこの作品に触れたのは小学生のころ。故郷の広島・呉にあった自衛隊の厚生施設・青山クラブを家族で訪れた時に置いてあったのを目にしました(記憶では)。クラブは昭和初期の竣工(しゅんこう)。往時の呉を代表する施設でアニメ映画『この世界の片隅に』にも登場しますが、老朽化で取り壊されるそう。残念です。

◆不正義の平和 見逃さぬ鬼才

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 最後は鬼才のアニメ監督押井守の<3>『TOKYO WAR』(エンターブレイン、一八三六円)。アニメ映画『機動警察パトレイバー2 the Movie』(一九九三年)の小説版で本当はアニメの方を先に見てほしい。これもやはり自衛隊と、PKOがテーマの一つです。

 「かつての総力戦とその敗北、米軍の占領政策、ついこの間までつづいていた核抑止による冷戦とその代理戦争。(中略)そういった無数の戦争によって合成され、支えられてきた血塗(ちまみ)れの経済的繁栄。それが俺たちの平和の中味だ。戦争への恐怖に基づくなりふりかまわぬ平和。その対価をよその国の戦争で支払い、そのことから目を逸(そ)らしつづける不正義の平和……」

 戦後日本へのこんな強烈な批判を登場人物は口にします。そしてこれもやはり、現代に通じる問い掛けでしょう。もともと人気ロボットアニメ「パトレイバー」の物語ですが、パトレイバーはほとんど登場しません。当時、映画館を訪れた子供たちは相当に戸惑ったでしょう。しかしそれでも社会に反応しようとする。だから押井は鬼才なのです。

 

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