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【東京エンタメ堂書店】

亡き人を偲ぶ 幽霊の話

 今日は旧盆の中日。亡き人を偲(しの)ぶ季節です。「シックス・センス」や「ゴースト ニューヨークの幻」など、幽霊が出てくる映画は多いですが、もちろん幽霊譚(たん)は古今東西、数知れず。なぜ人は、霊の話を求めるのでしょうか。 (文化部・出田阿生)

◆愛しい霊との再会

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 東日本大震災の年、宮城県石巻市の市街地を車で走っていたときのこと。「あそこの歩道橋だけどね」と運転手さんが切り出しました。「夕方になると、亡くなった人がたくさん立ってるんだって。見た人が大勢いる。あっという間だったから、死んだことに気付いていないのかね…」

 冗談のような顔ではありませんでした。津波で多くの人が亡くなったところです。別の地元の人に聞いたら、やはり同じ話をしていました。

 亡くなった愛(いと)しい人と再会する。そんな被災地での不思議なできごとを3年かけて聞き取ったノンフィクション作品が、<1>奥野修司著『魂でもいいから、そばにいて−3・11後の霊体験を聞く−』(新潮社、1512円)。著者はインタビューで、霊体験について「悲しみを受け入れるためのものではありません。むしろ別れを認めず、その存在を感じながら、忘れることを拒否しているように思うのです」と語ります(婦人公論8月22日号)。

 死ぬまで続く喪失感。大事な人を失っても生きなければならない日々と、どう折り合いをつければいいのか−。

◆死者は語りかける

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 <2>いとうせいこう著『想像ラジオ』(河出文庫、486円)は、津波で杉の木に引っ掛かった死者が、DJとなって「想像」の電波で語りかけます。そこで語られるのは「死者を抱きしめて」生きること。東京大空襲や広島・長崎の原爆でも同じで、「亡くなった人の声に時間をかけて耳を傾けて悲しんで悼んで、同時に少しずつ前に歩くんじゃないのか。死者と共に」と指摘します。

◆母の抱える秘密は

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 娯楽小説も見逃せません。北欧の女性作家カミラ・レックバリの人気シリーズ「エリカ&パトリック事件簿」に<3>『霊の棲(す)む島』(集英社文庫、1188円)という作品があります。「幽霊島」で幼い息子を育てる母親が抱える秘密とは−。哀切な結末が胸をえぐります。

◆無執着に生きた娘

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 最近の日本の小説では、<4>井上荒野著『虫娘』(小学館文庫、616円)はいかがでしょう。この作家特有の皮肉な味わいが効いた幽霊小説です。語り手の1人は、死んだ娘。他人に心を奪われず、執着せず、関心がないから「虫のよう」。生前、それは自由で強いことでした。それがラストでは−。

 どの幽霊本でも共通するのは、「死」が照らし出す「生」の姿です。亡くなった人、今も生きる人、そのどちらにも「生」があります。あなたに、会いたい。霊の話とは、大事な人をいとおしく思う心そのものかもしれません。

 

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