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【東京エンタメ堂書店】

心の奥底を解き明かす本

 世の中には、他人のために行動する人がいる一方、愚行や犯罪も毎日のように起きます。実験によって人の心の謎に挑んだ試みが記された本を紹介します。世の中の見方が変わるかも。 (科学部長・吉田薫)

◆人は権威に盲従する

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 心の奥深いところに巣くう残酷さを示した研究に、通称「アイヒマン実験」というのがあります。<1>『服従の心理』(河出文庫、1404円)の著者、スタンレー・ミルグラム博士は、ユダヤ系米国人の社会心理学者で、第2次大戦中のナチスによるユダヤ人虐殺に関心を持ちました。アイヒマンは虐殺にかかわった大物で、1961年当時、裁判にかけられていました。

 博士は「学習における罰の効果を調べる」という名目で、さまざまな人を被験者として集めました。被験者は先生役となり、生徒が解答を間違ったら、電気ショック発生器で衝撃を与えるよう、試験官から指示されます。生徒役は俳優が務め、電撃にもだえ苦しみます。白衣に身を包んだ試験官(権威)に命令されると、多くの一般人が、「やめてくれ」と叫ぶ人に、致死的な高電圧までかけてしまうのです。電撃が偽物で生徒役が俳優だということは、後から被験者に説明されました。

 結果に驚いた博士は「全米を探しても死の収容所を管理できる人材は集まらないと思っていたが、今は小さな町でも十分集められると思う」と書きました。

 権威への服従が起きる理由として「みんなが誰がボスか理解し、安定している組織は、内紛がなく、外部からの脅威に対して強い。それは進化的に有利な性質だ」と考察を加えました。

 いじめやパワハラは人間の本性に根差しているのでしょうか。「全社一丸となって」とか「党中央に絶対的忠誠を」といった言葉を耳にしますが、それによって上がった成果の裏には犠牲が隠されているのかもしれません。

 こんな実験はもう倫理上許されそうになく、最初で最後の貴重な試みだと思います。

◆他者への共感を分析

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 残虐性とは逆に、他人のための行動(利他行動)や、不幸への共感も、人間独特かもしれません。亀田達也東京大教授の著書<2>『モラルの起源』(岩波新書、821円)は、実験を通じて、これらについて探った広範な研究の記録です。「最も不運な人の境遇が、最大限恵まれる社会」を、人間は内心望んでいるのではないか、と亀田教授は考えます。格差が最小の社会ではなく、富の総和が最大の社会でもないのです。そして、実験や脳画像の分析など、客観的な証拠に基づいて示したことに新しさがあります。

◆魂の重さ調べる実験?

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 <3>レト・U・シュナイダー著『狂気の科学』(東京化学同人、2268円)は、ヨーロッパの科学ジャーナリストによる本です。1600年から現在まで行われた主に生物の実験90ほどを、次から次へと紹介しています。「魂の重さが21グラムだと示した実験」「研究者より俳優の方がよい教師になれるという実験」「チンパンジーと人間の赤ちゃんを一緒に育てる実験」などです。これらの実験の大半は過去の遺物とされていますが、改めて検討すると新しい意義が見つかるかもしれません。

 秋の夜長には、時にほろ苦い読み物もいいのではないでしょうか。

 

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