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【東京エンタメ堂書店】

<小林深雪の10代に贈る本>小説は苦手?それならエッセイ

 普段あまり本を読まない人、小説が苦手な人は、エッセイを読んでみませんか? 日常生活(ちょっとダメより)をユーモラスに描く三人の本をご紹介します。読むといつも笑ってしまうのですが、その文章の職人技にもうなります。

◆直木賞作家のグダグダ生活

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 <1>三浦しをん『お友だちからお願いします』(大和書房、一五一二円)

 <最近、うすうす感じていたのだが、ついに現実を突きつけられた。/体重が増加している!>で始まる冒頭の「餌を与えないでください」から笑ってしまいます。

 テレビはアンテナにつないでいないので、昼のワイドショーを見たい時は蕎麦(そば)屋へ行く。夕食は深夜のチェーン居酒屋。弟さんには「ブタさん」と呼ばれているが、ある時「トンタク」と呼ばれた。その理由は?

 直木賞作家なのに、ここまで、正直にぶっちゃけてしまっていいの? と心配になるほどグダグダな日常。小説とエッセイにギャップがあるのは、深沢七郎、遠藤周作先生以来の伝統? そして、あらゆることに自意識や妄想が暴走する様は、さすが小説家というべきでしょうか。

 まず一冊目は、<よそゆき仕様>のこの本からどうぞ。他のエッセイはさらにすごい。

◆違和感や自意識 とことん自虐的

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 <2>穂村弘『本当はちがうんだ日記』(集英社文庫、五六二円)

 本当はちがうんだ。こんなはずじゃない。今はまだ人生のリハーサルだ。でも、本番っていつ始まるんだ?

 オーラがない。エスプレッソが苦くて飲めない。焼き鳥の串から肉をなかなか外せない。主食は菓子パン。小学校の時、クラスで自分だけに、あだ名がなかった。十年通ったスポーツジムでひとりも友達をつくれず、陰で「修行僧」と呼ばれていた。ちがうんだ。修行じゃないんだ。

 とにかく情けない日常が、これでもかというくらい自虐的に書かれていますが、社会に感じる違和感や過剰な自意識は、十代なら共感する部分も多いはず。また、歌人として独自のポジションを得ている作者だけあって、言葉選びのセンスが良く、味わい深いエッセイになっています。

◆「自分だけ」…じゃなかった

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 <3>岸本佐知子『ねにもつタイプ』(ちくま文庫、六四八円)

 <私「きのう面白い夢を見てさ」/友人「その話ならこのあいだ聞いた」><心霊写真を見せられる。すごい、メガネまではっきり写っているね、と言うと、「それは私です」と言われる>。

 このように、全編、じわじわくる面白さ。また、何となく気になっているけれど、普通は深く考えないことに著者は、とことん「ねにもって」こだわります。

 コアラの鼻は触ったら温かいのか冷たく湿っているのか。肉の最もまずそうな動物はどれか? ニュースなどで「犯人はわけのわからないことを話しており」と言っていたけれど、それはどんな内容か。

 シュールで虚実入り交じって、読者を煙(けむ)に巻いていく。まるで良質のショートショートを読んでいるような気になるのは、作者が海外文学の翻訳家だからかもしれません。

 また、冒頭の「ニグのこと」など、こんなことを考えるのは自分だけ? と思っていたことを文章化してくれて嬉(うれ)しくなります。

 近年、ネット上では、SNSでみんながこぞって、素敵(すてき)な生活や素敵な自分を(盛って)アピールしています。でも、この三冊を読むと、自分の弱みは弱みとして平気で表に出せる、知らないことは知らないと素直に言える人のほうが、実は強いし、チャーミングだなと思わせてくれます。

 そんな、人間力を感じさせてくれる三冊でもあるのです。

 *毎月第四月曜掲載。

<こばやし・みゆき> 児童文学作家。『作家になりたい!(2)』(講談社青い鳥文庫)発売中。

 

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