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【東京エンタメ堂書店】

心つなぐ競技 子どもに贈りたい駅伝本

 早いもので今年も残り1週間。お正月は家族で箱根駅伝を見るという方も多いのではないでしょうか。走って、襷(たすき)を渡すシンプルな競技だからこそ、魅力があふれます。本年最後の東京エンタメ堂書店は子どもに読ませたい「駅伝本」。中学、高校、大学と年代別にどうぞ。 (運動部長・谷野哲郎)

◆悩みの「答え」走りながら

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 <1>瀬尾まいこ著『あと少し、もう少し』(新潮文庫、637円)は、中学生の駅伝大会をみずみずしく描く青春小説。瀬尾さんといえば、血のつながらない親子を扱った「卵の緒」が有名ですが、文章が本当に柔らかい。スタートから6区まで各区の走者を主人公に、リレー方式で話がつながっていきます。

 桝井(ますい)は市野中陸上部の部長。頼りない美術教師が部の顧問になるわ、メンバーは足りないわ。それでも中学最後の駅伝で県大会出場を目指し奔走します。集まったメンバーは元いじめられっ子の設楽、不良の大田、お調子者のジロー、先輩に憧れる俊介ら個性的な面々。誰もが人に言えない悩みを抱え、走りながら答えを見つけていきます。

◆諦めないことと諦めること

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 <2>額賀澪著『タスキメシ』(小学館、1404円)。膝の骨折でリハビリ中の眞家(まいえ)早馬は高校3年生。同じ陸上部の弟・春馬を支えようと、同級生で料理研究部の井坂都(みやこ)に料理を習い始めます。「駅伝×料理男子」のキャッチコピーが秀逸ですね。

 アスパラと里芋と豚肉の照り焼き炒め。豆乳麺。肉いっぱい甘口カレー。鰺(あじ)のなめろう丼…。出てくる料理のおいしそうなこと。お腹(なか)がすいているときに読むと、とんでもないことになります(笑)。弟の偏食を直すために始めた料理ですが、早馬は調理をしながら、弟、友人、そして自分と向き合っていきます。テーマは諦めないことと諦めること。少し悲しいラストは何度読んでも涙が出ます。

◆「速くなれ」でなく「強くなれ」

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 <3>三浦しをん著『風が強く吹いている』(新潮文庫、961円)。これはもう駅伝小説の決定版といっていいでしょう。おんぼろアパート竹青荘に住む寛政大学4年のハイジは新入生で天才ランナーの走(かける)と出会うと、ある計画を実行します。双子のジョータ、ジョージ、留学生のムサ、漫画オタクの王子…。竹青荘の学生全員で「箱根駅伝に出る!」と宣言したのです。

 何しろハイジと走以外は陸上未経験者。しかも、10人ぎりぎりの挑戦。実際に箱根駅伝を取材した経験からいえば、「あり得ない!」と突っ込みたくなりますが、それを差し引いても面白い。「速くなれ」ではなく、「強くなれ」と語りかけるハイジのようにありたいと願いました。

 この3冊を読んで、筆者は陸上シューズ職人の第一人者・三村仁司さんに聞いた話を思い出しました。「良いシューズとは軽いシューズのことじゃない。練習ができる、けがをしないシューズなんです。速くなるには練習以外にありませんから」。高橋尚子さんらの靴を手掛け、池井戸潤さん原作の『陸王』でシューフィッター村野氏のモデルとされる三村さんの言葉は今も胸に残っています。

 1917年に日本で生まれた駅伝は今年でちょうど100年。襷と一緒に思いを手渡すこの競技は次の1世紀も続いていくことでしょう。クリスマスやお正月は良い機会です。頑張るお孫さんやお子さんに駅伝本をプレゼントしてみてはいかがでしょうか。

 

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