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【東京エンタメ堂書店】

素敵な女性に出会える3冊 「SEKAI NO OWARI」藤崎彩織さん

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 新年初回の今日は、人気バンド「SEKAI(せかい) NO(の) OWARI(おわり)」のピアノ担当で、初めての小説『ふたご』(文芸春秋)が十六日選考の直木賞候補になっている藤崎彩織(さおり)さん(31)の登場です。出産したばかりですが、産休中に寄稿してくれました。テーマは「素敵(すてき)な女性に出会える三冊」。藤崎さんが魅せられた三人の女性とは?

◆気高い人

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 三浦綾子『氷点』(角川文庫、(上)(下)各六九一円)

 この本に出てくる「陽子」のように生きることができたら、何と美しいのだろうと思いました。そして美しいというのは、とても強くてとても脆(もろ)いことなのだ、と思いました。

 陽子の人生には幾度も不条理な出来事が起きます。悲運の波に襲われ、恐ろしい真実と向き合わなくてはならない瞬間が訪れます。それでも彼女は、どんな時でも高潔であろうとします。口汚く誰かを罵(ののし)ってしまいたいような時も、逃げ出してしまいたくなるような時も、彼女は気高く、曇りない心を持ち続けるのです。

 彼女の物語を読み進めていると、自然に応援したくなってきます。もっと生きて、もっと幸せになってと、声をかけたくなるような少女なのです。強さとは何だろう。純粋さとは何だろう。そして、罪とは何なのだろう。そんなことをひたむきに考えている美しい少女に出会える本です。

◆幸せ運ぶ人

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 山本弘『詩羽(しいは)のいる街』(角川文庫、八四三円)

 小説の中に出てくる女の子の中で、誰か一人だけ友達にできるのだとしたら。そんな素敵な妄想をしてみると、彼女のことが一番に頭に浮かびます。彼女の名前は「詩羽」。何とお金も家もありません。貧乏なのではなく、お金も家も持たずに生活するというのが、彼女のスタイルなのです。

 誰かを幸せにすることで、彼女の生活は成り立っています。お金や家という物質的な価値の代わりに、人と人との間で幸せを動かすのが彼女の仕事です。

 そんなことできるの?と思うかもしれません。結局お金を使った方が便利なんじゃないの?と。でもはっきりと幸せの価値を掴(つか)み、それを見事に人の間で循環させていく詩羽の生き方を知るうちに、私と同じように「詩羽が近くにいて、友達になってくれたら良いのに」と思うことでしょう。

◆貞淑な人

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 三島由紀夫「サド侯爵夫人」(『サド侯爵夫人/わが友ヒットラー』新潮文庫、四九七円 所収)

 忘れられない女性がいます。サド侯爵夫人に出てくる女性「ルネ」です。この本は戯曲で、台詞(せりふ)のみで進行します。本書には六人の女性が登場しますが、ルネはタイトルの通りサド侯爵の夫人にあたります。私はこの本の中で、ルネを形容する時に使われていた「貞淑」という言葉を初めて知りました。

 意味を調べてみると、女性の操がかたく、しとやかなこと、とあります。でも私は貞淑には、もっと色(いろ)んな意味が含まれているのではないかとこの戯曲を読みながら思いました。

 例えば精神的な強さや賢さなどです。そう考えてしまうほど、貞淑と形容されるルネが魅力的な女性に見えました。それはルネが賢く自分の理論を持っていて、なおかつそれらに従うだけの強靱(きょうじん)さを持っていたからなのだと思います。

 貞淑だということは、無垢(むく)であるということと同時に女性を恐ろしい姿に変えるほどの力を持っているのだということを、ルネの生き方から知りました。

 

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