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【東京エンタメ堂書店】

<江上剛のこの本良かった!>生活にかかわる評論3冊

 新しい年になった。平和な1年であることを祈りたい。今回は読みやすくて生活のためになる衣・食・暮らしの評論を3冊紹介したい。

◆成功体験抜け切れず

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 まず衣。

 <1>杉原純一・染原睦美著『誰がアパレルを殺すのか』(日経BP社、一六二〇円)

 アパレル業界は経営不振が続き、百貨店などの店舗閉鎖が相次いでいる。本書は、いざなぎ超えといわれる好調な経済の中で、なぜアパレルが不振なのかを豊富な取材とインタビューで追究する。最大の原因は「散弾銃を色々な方向にふり回しながら撃っている」とユニクロの柳井正会長が指摘するように、大量生産、大量出店のビジネスモデルが完全に崩壊したからだ。

 アパレルメーカーは経営効率化の名の下に製造を海外の相手先ブランドによる生産(OEM)メーカーに丸投げしてしまった。その結果「売れ筋を作る」能力を失い「売れ筋を追いかける」ことしかできなくなる。これでは消費者ニーズに応えられず「買いたい服がない」状態になり、消費者に見捨てられるはずだ。

 ではどうすればいいのか。ここからが本書の真骨頂だ。現状打破策インタビューの中で、一番感銘を受けたのはミナペルホネンの社長皆川明氏の考えだ。このブランドはデザイン、生地、縫製などすべてを自分たちで手掛け、消費者の強い支持を集めている。同社の成功は、他の大量生産型メーカーの真逆の道を歩んでいるからだ。本書は、成功体験から抜け切れずビジネスモデルの転換に苦しんでいる多くの日本企業の実態をえぐっているようにも思える。裏のタイトルは「誰が日本企業を殺すのか」かもしれない。

◆栄養抜きで肉が好き

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 次に食。

 <2>スティーブン・レ著、大沢章子訳『食と健康の一億年史』(亜紀書房、二五九二円)

 本書は、人類の食を一億年まで遡(さかのぼ)って探究する。昆虫、果物、肉、魚などを私たちはなぜ食べるようになったのか。著者は多くの国々に出かけ、「激しくのたくっている」生きたゾウムシの幼虫など現地の食物を勇敢にも実際に食し、それを食べるようになった仮説を饒舌(じょうぜつ)に語り続ける。

 それはトリビアに溢(あふ)れている。例えば「肉は性欲を高める」という章で、著者は肉には特別な栄養がないと言う。ではなぜ人類は肉を食べるのか。それはセックスに深く関係しているらしい。恋人たちが焼き肉を好きな理由がわかった気になってしまう。

 著者は、現代人の慢性病を改善するには「祖先が守ってきた食習慣やライフスタイル」を暮らしに取り入れるべきだと提言する。食が健康といかに密接に関係しているかを、食の歴史とともに納得することだろう。

◆「不景気」抜け出すには

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 最後に暮らし。

 <3>岩村充著『中央銀行が終わる日ービットコインと通貨の未来』(新潮選書、一五一二円)

 実感のない景気回復が続いている。経済政策が日銀におんぶにだっこの状態は今年も変わりそうにない。金利をマイナスにしても景気はさほど活況にならない。ビットコインやフィンテックなど新しい金融用語が飛び交う中でメガバンクのリストラがニュースになる。もはや銀行という存在が私たちの生活から遠くなりつつあるのではという疑問を抱いていたら、この刺激的なタイトルだ。いよいよ今年は日銀も終わりなのか。

 この本は、ビットコインが「枯れた技術」、すなわち使い古された技術を組み合わせて作られていることなど、その仕組みを分かりやすく(それでもなかなか難しいが)解説してくれる。また、通貨とは何かという根本を教えつつ、現在の日銀のマイナス金利政策が「流動性の罠(わな)」(金利が下がり切って金融緩和の効果が無くなる状態)を抜け出るために一発逆転の「心のバイアス」に陥り、「異次元」に飛び込んだのだと冷静に解き明かしてくれる。

 抜け出るには、日銀が発行を独占する通貨そのものが変わる必要があると説き、デフレ対策の責任を日銀が全面的に担いすぎれば、中央銀行が終わる日が来ると警鐘を鳴らす。現在の金融情勢の根本を概観するには最適だ。

 *二カ月に一回掲載。

 

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