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【東京エンタメ堂書店】

<小林深雪の10代に贈る本>場所、時間、次元も超えて

 本はどこでもドア。本を開けば、いつでも、どこへだって行くことができる。オーロラの舞う氷河やクジラの泳ぐ海、4次元の世界や雲の上へだって。今回のテーマは旅。冬の長い夜にふさわしい、静かで心にしみる3冊です。

◆悠久の大自然アラスカへ

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 <1>星野道夫『旅をする木』(文春文庫、五五一円)

 大自然に憧れ、アラスカに移り住んだ写真家、星野道夫さんのエッセイ集。

 月光に浮かび上がった夜の氷河。夜空は降るような星。時おり、どこかで崩落する雪崩のほかは何の音もしない。そこで生き物のように舞う冷たい炎。「オーロラだよね。本当に見てしまったんだ」

 「ルース氷河」と題された項では、日本から来た反抗期の子どもたちが、岩、氷、雪、星だけの無機質な世界に驚き感動するシーンが描かれます。<情報が少ないということはある力を秘めている。それは人間に何かを想像する機会を与えてくれる>という星野さんの言葉が、心に響きます。

 また、わたしたちが都会で電車に揺られ、雑踏で人にもまれているその同じ時間に、アラスカの海でクジラが飛び上がっている。自分が暮らしているここだけが世界ではないと知ることの価値をつづった「もうひとつの時間」。

 星野さんが十六歳で初めてアメリカを一人旅し、さまざまな人々が、それぞれの価値観を持ち、遠い異国で自分と同じ一生を生きていると知る「十六歳のとき」。深く傷ついたある家族が大自然と対峙(たいじ)して答えを探す「ある家族の旅」。結果など残さなくてもいい。何も生み出すことのない、ただ流れていく時間こそを大切にしようと伝える「ワスレナグサ」など、十代に読んでほしい文章がたくさん詰まっています。

 誰もが一生という旅をしている。そして、もっと大きな時間の流れや大自然の中で、人類もまた旅をしている。そんな悠久の時間を感じられる深く温かい一冊です。

◆4時44分非日常へ

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 <2>フジモトマサル『二週間の休暇』(講談社、一六二〇円)

 四時四十四分ちょうどになったら、白い壁を手で触れると四次元の世界に入ることができる。そこは、フジモトマサルさん独特の擬人化された鳥たちが暮らす世界。主人公の日菜子は、そこで不思議な二週間の休暇を過ごします。

 ある日、鳥のロンゴさんが遺跡で発掘したのは、アイスキャンディーのあたり棒、ぶどうのにおいつき消しゴムやスケッチブック。それらを目にした時、日菜子の封印していた小学生時代の記憶が蘇(よみが)えります。そうか、ここは……。

 現実と夢、生と死がメビウスの輪のように繋(つな)がっている非日常の世界。その儚(はかな)い幸福感が主人公と一緒に味わえ、優しく心を癒(いや)してくれる漫画です。また、巻末の「給水塔占い」は当たると評判です。

◆ふわりと空の中へ

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 <3>石井桃子『ノンちゃん雲に乗る』(福音館書店、一二九六円)

 主人公のノンちゃんは八歳の女の子。雨あがりの日、ひょうたん池の水かさは増し、そこに青い空と真っ白い雲が浮かんでいます。ノンちゃんがその空に飛びこむと、白く長いひげを垂らした仙人のようなおじいさんが、熊手で雲の上にすくい上げてくれます。

 ノンちゃんはそこで、家族ひとりひとりのことをおじいさんに話して聞かせます。そして、とびきり素敵(すてき)な贈り物をもらって帰ります。

 読んでいる間中、重力から解放されて、自分も雲の上にいるような心地いい気分にさせてくれます。一九六七年に発売(福音館書店版)されたロングセラーの児童書ですが、ぜひ再読して、幼い日々へ返る時間旅行を楽しんでください。大人の方もぜひ。

  *毎月第四月曜掲載。

<こばやし・みゆき> 児童文学作家。『ひとりぼっちの教室』(講談社)発売中。

 

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