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【東京エンタメ堂書店】

明治150年 西郷を追う

 今年は明治元年から数えて150年。NHK大河ドラマ「西郷(せご)どん!」の放送で注目を集める明治維新の立役者・西郷隆盛にちなむ新刊を紹介します。 (小佐野慧太)

◆女へ男へ 愛の人

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 まずは大河ドラマの原作<1>林真理子『西郷どん!』(角川書店、上製版は全二巻・各一八三六円)。子の菊次郎をストーリーテラーに、西郷の一生涯を描いた小説です。西郷は「敬天愛人(けいてんあいじん)」という言葉を好みました。本書も周囲の女たち、男たちへの「愛」が大きなテーマとなっています。

 大河ドラマの放送前、この原作にボーイズラブ(BL)の要素があると話題になりました。特に薩摩藩主・島津斉彬(なりあきら)を思慕する西郷の姿が印象的です。三島由紀夫は『葉隠入門』で「人間の恋のもっとも真実で、もっとも激しいものが、そのまま主君に対する忠義に転化される」と武士道の精神構造を論じています。BLと言うと現代的ですが、本書の心理描写にはリアリティーを感じさせられました。

 西郷は明治政府内の「征韓論」をめぐる政争に敗れ、下野します。本書は朝鮮出兵は西郷の本意ではなかったという立場を取り、運命にのみ込まれ、西南戦争で死を迎える悲劇性を際立たせています。

◆「近代化」に違和感

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 征韓論の捉え方一つを取ってもそうですが、これまで西郷の人間像はさまざまに論じられてきました。<2>先崎彰容(せんざきあきなか)『未完の西郷隆盛』(新潮選書、1404円)は、福沢諭吉、中江兆民、頭山満(とうやまみつる)、橋川文三(ぶんぞう)、江藤淳といった思想家たちの西郷観を展望する本です。彼らに共通するのは、「日本の近代化に対して違和感を抱き、西郷隆盛という人間の生涯をつうじて、日本の『近代』を洞察し、その特徴をあきらかにしようと試みた」ことだと著者は指摘します。

 西郷は、過度に西洋を理想化して欧化、近代化を追求する明治維新後の世相に警鐘を鳴らしました。こうした西郷の問いは、日米関係や科学技術の問題を考えるとき、今なお私たちに訴えかけてくるものがあります。

 一方で著者は、西郷の「政治的リアリズムの欠如」を『翔(と)ぶが如(ごと)く』などで批判した司馬遼太郎にも目を向けます。西郷の思想の魅力と、その危うさに迫る一冊です。

◆自分の家系探ると

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 小説が描く西郷の姿もさまざまです。<3>山下洋輔『ドバラダ門』(朝日文庫、1037円)は、1990年に出版された単行本の文庫版です。

 ジャズピアニストとして有名な著者。鹿児島のジャズフェスティバルに招待された際、母に刑務所を見てくるように勧められ、驚きます。その建物は祖父の啓次郎が設計した旧鹿児島監獄でした。

 家系を調べるうち、曽祖父が西郷と親しい人だったことも判明してきます。著者は小説こそあまり書いていませんが、独特のリズムを持つエッセーの名手として知られています。本書は、山下家のルーツを探る随筆を読んでいるうち、いつの間にか西郷たちの時代に迷い込んでしまうような不思議な小説です。

 啓次郎は鹿児島を含む「明治の五大監獄」(千葉、金沢、奈良、長崎)と呼ばれる施設を設計しています。このうち旧奈良監獄は昨年3月に少年刑務所の役割を終えましたが、ホテルとしてリニューアルされることが話題になっています。

 

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