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【東京エンタメ堂書店】

創造の力 老いて豊か 横尾忠則さん対談集「煩悩消え進化していく」

 ピカソ、ミロ、シャガール…これら世界の巨匠はみんな、九十代まで生きた。創作と長命には、関係があるのか? そんな疑問を、美術家の横尾忠則さん(81)が八十歳以上の現役クリエーター(創造者)九人にぶつけた対談集『創造&老年』が刊行された。対話からみえてきたものは何か。東京・世田谷のアトリエで、横尾さんに聞いた。(岩岡千景)

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 対談相手は、九十五歳の作家の瀬戸内寂聴さんや、今年二月に九十八歳で亡くなった俳人の金子兜太(とうた)さん、九十四歳の作家の佐藤愛子さん、八十六歳の映画監督山田洋次さんら、そうそうたる顔ぶれだ。

 横尾さんは七十歳の時、それまで乖離(かいり)していた「芸術年齢」と「肉体年齢」が「一緒になった」と感じたという。芸術年齢とは創造行為に向き合う精神の年齢。肉体より十〜二十歳ほど若く感じていたが、そのずれが失われたことが、創造と老年の関係への興味を駆り立てた。ほかの人はどうか、老年意識は持つべきか? 問い掛けると、老年意識がある人は皆無だった。

 「一般的に考えると、年を取れば体の老化も進み、頭もぼけて、いろんな意味でマイナスが大きい。だけど創造することによって、老齢の体力も精神力も超えて、若いころにはできなかったことができ、創造行為が豊かになってくる。それが、ほとんどの人の答えだった。ほかにも共通するのは、みんな自分の年齢に無頓着で、養生訓もない。好き勝手なことをやっていて、何にも縛られていない」

『創造&老年』(SBクリエイティブ)について語った横尾忠則さん

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 九十歳を超えても意欲はあるのかとの問いに、瀬戸内寂聴さんは「あるのねぇ…」と応える。また命を継いできた力を問うと、金子兜太さんは太平洋戦争の激戦地・トラック島での生き方を語る。島では現地の女性を女房同然に扱い、集落の長に食べ物の調達などを命じる軍人がたくさんいたが、金子さんはそうせず対等に接した。「それが私を長生きさせた、一番大きい理由だと思いますね」と金子さんは言う。「見えないものを感じることこそ、ものを創る根幹になると思う」とも。

 佐藤愛子さんとは「見えない世界」が話題に。また八十五歳の作曲家・一柳慧(いちやなぎとし)さんは「年を取ってからのほうが、社会からの束縛がなくなるぶん、好奇心や冒険心に純粋に従えるようになる」と、老年の創作への影響をむしろ肯定的に論じる。

 「七十代後半ぐらいから雑念というか、煩悩から解放される。物を創ることで、名誉とか地位とか財産とか、自分の命さえも、どうでもよくなってくる。不思議に考えなくなり、自由になれる。何かが進化していく感じがする」と横尾さん。最終章では、九人との対談を終えての発見がつづられる。その一つは、自分の内なる声に耳を澄ますことの大切さ。「ある程度の年齢になると『そうなんだ、答えは自分の中にある』と。いろんな本を読まなくても、自分の体の中に図書館があることに、自然に気づく」

 年を重ねて体が脳の支配から逃れ、創作に純粋に取り組めて、創造の核である幼児性(アンファンテリズム)に近づくことにも言及する。「老年になるに従って、眠っていた幼児性が目を覚まし始める。純粋で素朴で無垢(むく)である自分が、だんだんよみがえってくるわけです。物を創ることで、肉体と精神が自然にエクササイズ(鍛錬)されもする。だから創造と結び付けると、老年になるのは決して恐ろしいことや暗いことではない気がするんです。僕は、年をとっても物を創ることを皆さんに勧めたい。俳句でも盆栽でも、自伝や趣味の絵をかくのでもいい。若いころは世間に認められ、成功したいっていう考えが優先されるけれど、そういう煩悩も消えていく。純粋な創造行為だけで生きていけますから」

 みえてくるのは、創造の力が、老いてますます豊かになることだ。

 

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