東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > Chunichi/Tokyo Bookweb > 東京エンタメ堂書店 > 記事一覧 > 記事

ここから本文

【東京エンタメ堂書店】

花開き、舞い散る「桜」の物語

 今年の桜は例年より早く咲きましたね。五分咲き、満開、葉桜。どれも味わいがあります。もうお花見は終わった方もまだの方も、春本番はこれから。次は本の世界で桜を楽しんでみませんか。 (運動部長・谷野哲郎)

◆純粋に不器用に

写真

 ハラリハラリと舞い散る桜の花びらを見ると、気分が落ち着くという人も多いはず。同じように、静かにくつろぎたいときには、<1>『桜風堂(おうふうどう)ものがたり』(村山早紀著、PHP研究所、1728円)がお薦め。昨年の本屋大賞ノミネート作品で、心がほんわかと和む一冊です。

 主人公の月原一整(いっせい)は、不運な事件をきっかけに長年勤めた銀河堂書店を辞めることになります。人生の再出発を余儀なくされた一整ですが、田舎町の書店「桜風堂」を営む老人を訪ねたことで、運命が変わり始めていきます。

 元同僚で児童書担当の苑絵(そのえ)、文芸担当の渚砂(なぎさ)、桜風堂店主の孫・透くんら登場人物全員がいとおしい。「一冊でも多く、本が売れますように」という純粋な思いと不器用な生き方が伝わって、鼻の奥がつんとなりました。

◆古木と庭師の生涯

写真

 サクラの木そのものをもっと知りたい。そんなときは<2>『櫻(さくら)守』(水上勉著、新潮文庫、767円)はいかがでしょうか。ひたすら桜を愛し、守り続けた庭師弥吉の生涯。「水上文学」と呼ばれる、独特かつ上質な文体で桜の世界に浸ることができます。

 「灰色の肌にふれた。とんとんとたたいてみた。幹芯はうつろだろうに、皮は相当の厚みである」。ソメイヨシノよりも山桜、里桜を愛した師匠・竹部を慕った弥吉。ダムの底に沈みゆく樹齢400年のアズマヒガンを救おうとする場面は心が動きました。

◆懐かしく瑞々しい

写真

 桜は、蕾(つぼみ)から花びらが開く瞬間も美しいですよね。そんな初々しさを体験したいなら、<3>『サクラ咲く』(辻村深月著、光文社文庫、605円)です。中高生が主人公の3編を収録。どれも学生特有の瑞々(みずみず)しい感性にあふれ、懐かしさが込み上げました。

 表題の作品は内気な中学1年生・塚原マチがクラスメートと友情を深める物語。マチは偶然、学校の図書館で本に挟まった「サクラチル」と書かれた便箋を見つけます。同じように返信して始まった不思議な文通。誰が、何のために書いたのか−。ミステリーの要素も楽しめる青春小説に仕上がっています。

 この3編は違う話なのに、どれも少しだけ登場人物が重なっています。これは辻村作品の特徴でもあるのですが、気付いたときには不覚にも涙が出ました(同じ思いの人もきっといるはず!)。

 筆者の中で桜といえば、『小説 秒速5センチメートル』(新海誠著、角川文庫)、漫画は『夕凪(ゆうなぎ)の街 桜の国』(こうの史代著、双葉社)が断トツの1位。どちらも紹介済みなので、今回は違うものを選びました。

 ほかにも桜に関する良作は多く、最近では『最後の医者は桜を見上げて君を想(おも)う』(二宮敦人著、TO文庫)、『桜のような僕の恋人』(宇山佳佑著、集英社文庫)、『桜の下で待っている』(彩瀬まる著、実業之日本社文庫)などが深く印象に残っています。

 切ない心情や幸せな思い出。桜には誰もが言葉に残したくなるような何かがあるのでしょう。それもこの花の持つ魅力の一つだと思うのです。

 

この記事を印刷する

PR情報