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【東京エンタメ堂書店】

<小林深雪の10代に贈る本>雨降る季節 異界へ連れ出す怪談

 梅雨の季節。外に出かけたくない日は、もちろん読書。灰色の空から、しとしと降る雨で肌寒く湿度も高い。一人で薄暗い部屋にいると怪しい気配が…。そんな6月にぴったりの和風異世界ホラーとファンタジーを選びました。

◆式神、天狗…どこかなつかしい

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 <1>今市子(いまいちこ)『百鬼夜行抄』(朝日コミック文庫、既刊十七巻、第一巻六四八円)

 新刊が出ると必ず買ってしまう大好きな漫画の一つです。

 妖魔や幽霊など、普通の人には見えないものが見えてしまう主人公・律と亡くなった幻想小説家の祖父をはじめとする飯嶋ファミリーの怖くて不思議な日々。

 日本の伝説や民話や風習をベースにした、どこかなつかしく幻想的な世界。繊細な絵と構図には圧倒されます。

 一話完結で、どの話も面白く、どこから読んでも大丈夫。梅雨の季節には一巻収録の「あめふらし」がぴったり。その昔、田畑に恵みをもたらす雨乞いの祭祀(さいし)を取りおこなう巫女(みこ)がいた。その巫女の死霊の力を利用して雨を降らせる「雨降らしの珠(たま)」を見つけた律は……。

 また、祖父の式神である竜の姿をした青嵐や、飯嶋家の桜の木にすむ烏天狗(からすてんぐ)の妖魔、尾白と尾黒がユーモラスで笑わせてくれます。

◆何か買わないと帰れない

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 <2>恒川光太郎『夜市』(角川ホラー文庫、五六二円)

 学校蝙蝠(こうもり)が飛んできて告げる。今宵(こよい)は夜市が開かれる。

 それは、妖怪たちが不思議な品物を売る不思議な市場。

 裕司は、小学生の時、そこで「野球の才能」を買ったことがある。自分の五歳の弟と引き換えに。野球の才能は手に入れたが弟は消えた。

 弟がいなくなって、おやつも母親も独り占めできるのにちっとも嬉(うれ)しくない。自分が打ったホームランを見て泣きたくなる。残ったのは、後悔と罪悪感だけ。

 そして、それから十年の時が流れ、裕司は弟を捜すため再び夜市へ。そして……。

 日常に潜んでいる非日常。人は、ふとしたはずみに違う世界に足を踏み入れてしまう。そして、一瞬の気の迷いで心の闇にも簡単に落ちてしまう。その怖さ。

 誰もが持っている無意識の記憶を呼び覚ましてくれるような、そんな小説です。

 何かを買わないと絶対に帰れない夜市。あなただったら、何を買いますか? 

◆死んだ友の薄暗い家には

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 <3>梨木香歩『家守綺譚(いえもりきたん)』(新潮文庫、四六四円)

 綺譚とは珍しい話、不思議な物語のことです。

 主人公は、仕事があまりない物書き。亡くなった親友の実家に「家守」として住むことに。そして、この家には、編集者やお隣のおかみさんだけでなく、人以外のたくさんのものたちがやってきます。

 床の間の掛け軸から現れる死んだはずの友人。不思議な力を持つ犬のゴロー。庭の白木蓮(もくれん)から生まれた白竜。和尚に化けた狸(たぬき)。河童(かっぱ)や小鬼や人魚。そして、三つ編みの乙女、ダァリアの君。

 <ざぁーという雨の音が(中略)だんだん激しく取り囲む。その音を聞いていると、何かに押さえつけられてでもいるように動けなくなる。さながら雨の檻(おり)の囚人になったような気になる。>。これは、「ドクダミ」の章の一節ですが、梅雨の季節になると、いつもこの文章が頭を過(よぎ)ります。

 幼い頃、祖父の家に泊まり日が暮れるとあたりが真っ暗になり、異世界への扉が開かれ、そこに住む異界の住人に会えるような気がしました。あの昔の薄暗い日本家屋の影や闇を思い出します。

 都会の喧騒(けんそう)や平凡な毎日からさっと異界へ連れ出してくれる。そんな三冊です。

  *毎月第四月曜掲載。

<こばやし・みゆき> 児童文学作家。『これが恋かな?(1)』(講談社青い鳥文庫)発売中。

 

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