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【東京エンタメ堂書店】

<江上剛のこの本良かった!>私たちを幸せに導くものは

 米朝会談が実現し、日本の立ち位置も問われている。あるべき国家、良きリーダーの姿とは? それを考えるヒントを与える3冊。

◆「生活救ってくれる」…信仰脱却を

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 株やビットコイン投資で続々と「億り人」(億単位の資産を築いた人)が誕生し、好調な大企業の業績を受けて、そこで働く経営者の収入は増えているらしい。しかし、富裕層が増えれば庶民の収入が増えるという「トリクルダウン」の実感はなく、庶民の財布のひもは固いままだ。経済成長とは一体何か? 私たちを幸せに導くものなのか? そんな疑問に答えるのが、<1>ダニエル・コーエン著、林昌宏訳『経済成長という呪い』(東洋経済新報社、二一六〇円)。

 著者は「経済成長は目的をもたらす手段ではなく、むしろ生活の苦悩から人間を救い出す役割を期待される宗教」のように働くと指摘。無限に経済成長するという宗教(呪い)に絡めとられた人類は、一体どこに行き着くのか、というテーマに挑む。

 人類史、貨幣史、テクノロジー史などが人類にどのように影響を与えてきたかを明快に解説。特に「国家は、国家独自のやり方で、互恵、贈与、物々交換の関係を解消するために貨幣を必要とした」という指摘は重大だ。貨幣の誕生によって、我々は人間同士の直接的な関係を解消させられ、国家や国家的な企業に隷属するようになったのだ。

 随所にちりばめられたアフォリズム(金言)に経済成長という呪いからの脱却を試みるべきだと考えさせられる。

◆衝撃の心理学的歴史学

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 <2>ナシア・ガミー著、山岸洋・村井俊哉訳『一流の狂気−心の病がリーダーを強くする』(日本評論社、二八〇八円)

 米朝会談を実現させたトランプ大統領にノーベル賞を、という声があるらしい。アメリカ・ファーストを掲げ、傍若無人に振る舞うトランプ大統領は何者なのかと考えるのに最適なのが本書だ。

 歴史を変えたリーダーたちは重い精神疾患を患っていた。それゆえ、あるいはそれをうまくコントロールできたがゆえに世界をリードできたという衝撃の内容。このアプローチは心理学的歴史学といい、著者は「精神疾患というものが人類の最高の特質の源泉でもある」という。

 例えば奴隷解放をリードしたリンカンは、自殺願望を持つ重篤な鬱(うつ)だった。それゆえに共感力が強くなり、手足に枷(かせ)をはめられた奴隷を見て奴隷解放に立ち上がり、南北戦争を勝利に導いた。

 チャーチルも同じ精神障害で、何事も悲観的にとらえてヒトラーを全否定し、イギリスを反ヒトラーの戦いに導き、勝利した。健康な精神を持つチェンバレンはヒトラーの危険性に気付かず、彼を賞賛(しょうさん)していた。

 キューバ危機を乗り切り、米ソ開戦を防いだケネディはアディソン病という自己免疫疾患で、強力なステロイド剤を投与され続けていたため、躁(そう)と鬱が交代で出る状態だった。しかし医師団の懸命な治療により冷静、賢明な判断ができ、国家の危機を乗り切った。同じような双極性障害を患い、適切な治療を受けられなかったヒトラーは世界を破壊し続けた。

 真のリーダーシップとは何かと考えさせられる。

◆「力が正義」の国だから

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 <3>木村汎著『プーチンとロシア人』(産経新聞出版、一九四四円)

 北朝鮮を巡り、米国のトランプと中国の習近平の動きが活発化する中、もう一人の主役・ロシアのプーチンがどう動くのか世界が注目している。本書は、ロシア人やロシア社会などに人間学的アプローチを試み、プーチンに迫る。

 ロシアの広大さと自然環境の厳しさが育んだロシア人は、極端な二面性を持つ。内面の自由を欲する一方で「ギガント(巨大)マニア」と称すべき巨大なものに心酔、服従する性質だ。

 力を尊ぶロシア人に、プーチンはうってつけ。ストリートで喧嘩(けんか)しながらのし上がった強い男だからだ。プーチンが裸で馬に乗るマッチョさを売りにしているのは、強さを国民に見せつけているのだ。

 ロシアの力とは、経済はいまひとつなので軍事力になる。その軍事力の「脅し」の機能をロシアは有効に使う、と著者は言う。戦わずして勝つ戦略なのだ。しかし行使しないと思われれば脅し効果はなくなる。そこで時々、実際に刀を抜いて見せる。それがクリミアなど抵抗できない弱い国に行う軍事侵略なのだ。

 力が正義だから、戦争で奪った北方領土は、戦争で奪われない限り返還する気など全くない。こんな国を相手に北方領土返還や北朝鮮問題を交渉しなければならない日本は、よほど悪者にならないといけないのではないか。 (えがみ・ごう=作家)

 *二カ月に一回掲載。

 

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