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【東京エンタメ堂書店】

<扉のむこうへ>被災地の希望と閉塞

 かつてのマンガの中には、しばしばどこともつかない無名の「田舎」が登場することがあった。しかし、今日ではそうしたあいまいな土地が描かれることは少なく、具体性のある地域、地方を舞台にした作品が数多く生み出されている。

 その背景には「聖地巡礼」あるいは「コンテンツツーリズム」と呼ばれるような、マンガやアニメのモデルとなった場所を訪ねる観光のあり方が広がっていることもあるだろう。もうひとつ、地域振興とマンガやアニメというポップカルチャーの接点として無視できないのは、ご当地キャラの隆盛だ。

◆「隣人」になったキャラ

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 森真理(まんが)、三条和都(ストーリー)の<1>『学習まんが くまモン 地域振興と災害復興にかけまわる次世代のリーダー』(小学館、1026円)は、そんなご当地キャラのなかでも抜群の知名度と人気を誇る熊本のマスコット、くまモンの伝記である。

 生身の人間ではなくご当地キャラが学習マンガのシリーズの一冊に加わるというのは、おそらく前代未聞だろう。熊本県くまモングループが監修する本作では、誕生の経緯も説明されているが、内幕があからさまにされることはなく、くまモンは自分の意思を持った存在として扱われる。

 ご当地キャラ企画立ち上げの秘話としてでなく、あくまで人物伝として描かれているのだ。その点も含めて異例づくしのマンガだが、今日の日本で、キャラクターが私たちの日常の中に、親しみの持てる隣人として自然に溶け込んでいることを示す一冊ともいえそうだ。

◆スマホを埋め込まれ

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 くまモンは震災後の熊本を活気づける存在として活躍を果たしたわけだが、ご当地キャラが与えてくれる希望とは異なり、被災地を舞台に閉塞(へいそく)的な感覚を描き出す円城寺真己の<2>『魔風が吹く』(集英社、第1巻626円・第2巻648円)は、フィクションならではの形で震災後の風景を切り取っている。

 生活苦の中で犯罪に手を染めたことがきっかけで、外科手術によって腹中にスマートフォンを埋め込まれてしまった青年を主人公にした、先の読めないサスペンス。両作を並べてみると物語やキャラクターが経験させてくれるものの多様さが実感される。

(岩下朋世(ほうせい)=マンガ研究家)

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 この欄では、各界の読書の達人がさまざまなジャンルのお薦め本を紹介します。

 

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