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【東京エンタメ堂書店】

<江上剛のこの本良かった!>衝撃!「銀行に未来は…」

 先日、恐ろしい話を聞いた。ある地方銀行の頭取からだ。彼が言うには、新入行員が入行早々に転職サイトに登録しているのだそうだ。もはや銀行には未来がないと若い行員が考えているのだろう。

◆中央銀行−セントラルバンカーの経験した39年

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 <1>白川方明(まさあき)著『中央銀行−セントラルバンカーの経験した39年』(東洋経済新報社、四八六〇円)

 著者は非常に地味な日銀総裁であったという記憶がある。現在の黒田東彦(はるひこ)日銀総裁のようにバズーカ砲などぶっぱなさなかったからだ。しかし本書はその地味さを一変させた。日銀マン時代を編年的に振り返りながら理論家的実務家としての面目躍如を果たしつつ、時に真面目な顔をして政治家に対する皮肉、批判をたっぷりと盛り込み、読み応えがある。

 それにしても、よくここまで吹っ切って七百ページ以上も書いたものだと感心する。著者はそれだけ現在の日銀が政権の金融政策のツールと化し、独立性や自尊心を失っているとの危機感が強いのではないだろうか。

 実際、著者の日銀マン時代はバブル経済とその崩壊、銀行破綻、リーマン・ショック、政権交代、東日本大震災と東京電力福島第一原発事故、長期デフレなどなど、戦後日本人が経験したことがない未曽有の混迷期だった。本書にはそれらの事態に日銀マンとしてどのように対応してきたのかが詳細に描かれている。金融関係者は理論が実際の現場でどのように生かされているのかが、そして企業人は危機への姿勢が学べるだろう。

◆銀行員が消える日

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 <2>山田厚史著『銀行員が消える日』(宝島社、一五一二円)

 長年、朝日新聞経済部記者として第一線で銀行を取材してきた著者は「バブル時代以降、多くの銀行マンが自ら生き残るために顧客を食い物にした。しかし、いまはっきりと見えてきたのは、銀行という組織が生き残るために『銀行員』を切り捨てようとしている構図である」と言う。今や、銀行員が消えようとしているのは因果応報なのか、それとも銀行経営者の非情さのためなのか。本書を読めば、おのずと答えが判明する。

 著者が最も強調する銀行の危機の本質とは、存在意義の喪失である。金融緩和でもマイナス金利でもない。これを考えるにはこれまでの銀行の歴史を振り返るべきだ。そのための必読書だろう。

◆ドキュメント 金融庁VS.地銀−生き残る銀行はどこか

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 <3>読売新聞東京本社経済部著『ドキュメント 金融庁VS.地銀−生き残る銀行はどこか』(光文社新書、八二一円)

 地銀は今や消滅の危機に慄(おのの)いているといわれる。本書は先ごろ退任した森信親(のぶちか)前金融庁長官時代に書かれたものだ。金融庁と地銀の攻防戦をリアルにドキュメントしている。森氏が退任された今、読み返してみるのも興味深い。

 本書において金融庁は、銀行は企業を見る力、すなわち「目利き力」を強化すべきだと言う。その通りなのだが、これがなかなか難しい。それだけで危機を乗り切れるのだろうか。目先の収益を優先しなければ危機は乗り切れない。しかしそれが過ぎるとスルガ銀行のように不正融資の増強に走ってしまう。

 本書の最後のインタビューで森氏は、銀行は「顧客本位」というあるべき姿に立ち戻るべきだと話している。「顧客本位」の姿勢を忘れると、フィンテック(金融と技術)を駆使するIT企業に金融の盟主の座を奪われてしまうということだ。これは森氏の最後のメッセージとして重く受け止めたい。

  (えがみ・ごう=作家)

  *2カ月に1回掲載。

 

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