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【書く人】

心の内を述べる創作 『コロボックルに出会うまで』 児童文学作家・佐藤さとるさん(88)

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 夢中になって読んだ「コロボックル物語」シリーズ。一九五九年の発表以来、累計三百万部を超え、今も愛されている。本書は制作舞台裏ではない。まさに「出会うまで」の自伝的小説。就職した二十一歳から結婚するまで三年の“青春右往左往”と作家への転機を描く。シリーズの原型といえる『てのひら島はどこにある』誕生秘話でもある。

 「ずっとこだわってきたストーリーを『てのひら−』として書けて、自分の中で卒業できた。それでコロボックルの話に取り掛かることができたんです」

 神奈川県横須賀市で生まれ、十歳から横浜へ。虫好きのためか、小さい物に興味があり集め続けていた。母親が与えてくれた小学生全集を読み終え、十代は毎日図書館で大人の文学も一通り読んだ。結果「一番心ひかれるのは児童文学だった」。作品が少ない時代、なら自分が読みたい長い話を書いてやろう。十六歳で芽生えた気持ちだった。

 終戦直前に両親の故郷北海道で肺結核の療養、アルバイト生活。戦後、建築の専門学校から横浜市職員を経て中学校の教師、出版社勤務へ−。「七転八倒の中、それでも書きたい気持ちは消えなかったんだよ」

 「もう僕は年だからね」と言いながら、創作の話は止まらない。「ファンタジーには書く人の心の内が出てくる。しょせんウソ話だと言う人がいるけれど、そうじゃない。何かを象徴しているんですよ。きちんと論理を持ってね。それが非常に重要なこと。心の内を述べているんです」

 児童文学の定義を問うと、さらに力がこもった。「子どもが鑑賞できる限られた言葉遣いで、大人も十分に楽しめるものが児童文学なんだ。芥川賞とかよりずっと上のレベルにいっていないと駄目。それを子どもにも分かるように書く難しさなんだよ」

 指摘は厳しくても、作品に流れる“心の内”はどこまでも優しい。「実際の僕は子ども時代を書いた『わんぱく天国』(ゴブリン書房)にある以上に生意気だよ」とうそぶくけれど。

 本書の舞台は戦後の占領期。「飢えや戦争を知らない人には分からない」とそのさまは多くは書かれていない。それでも心の内が出ているのでは。「ファンタジーは特に明確に出るけれど、こういう本も同じだね。だから文学って面白いんだ」とうなずいた。偕成社・一九四四円。 (野村由美子)

 

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