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【書く人】

鬼平と連なる猛者50人 『「火附盗賊改」の正体』 作家・丹野顯(あきら)さん(76)

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 草創期の任務は「皆殺し」だった。泣く子も黙る江戸幕府の特殊部隊「火附盗賊改(ひつけとうぞくあらため)」。人物像から、時に無慈悲を極めた捜査ぶり、ポストの位置付けまで、その実態に迫った労作だ。池波正太郎の時代小説や時代劇で描かれ知名度の高い火盗改(かとうあらため)だが、意外にも最末期を除き一貫して非専任職。定まった役所さえなく、業務資料があまり引き継がれなかったことから謎も多いというが、「鬼平こと長谷川平蔵だけが火盗改ではない」との強い思いで、約五十人の猛者(もさ)の素顔に迫っていった。

 本書によれば、延べ二百四十八人が任じられたが、独自に拷問法を考案した者、捕物より筆が達者だった者、身内の腐敗に悩まされた者と仕事ぶりは人それぞれ。実績面ではやはり、膨大な判例を積み重ね、人足寄場(にんそくよせば)の設置で無宿者対策を進めた平蔵に注目するものの、人気者を手放しで評価することはない。「彼が就任する数年前まで火盗改を率いた贄正寿(にえまさとし)が、配下の与力・同心を徹底的に鍛え上げ、それを平蔵がそっくり受け継いだんです。歴代でも特に多くの罪人を裁きにかけた平蔵ですが、先輩火盗改の貢献が大きかったわけです」と冷静だ。

 大学卒業後、二年間の出版社勤務を皮切りに長く編集者として活躍。日本史上の重要人物を取り上げるシリーズ企画で江戸時代の数人を担当し、研究者とのやりとりや史料調査を通じて当時の世相に関心を持つようになった。約三十年前、初の単著を刊行して本格的に文筆の道へ。江戸庶民の生活史、精神史を主要テーマに多くの著作を手掛けてきた。その流れか、本書でも駿河、尾張、近江など広範囲で強盗を働いた通称「日本左衛門」ら取り締まられる側の素性、犯罪を生み出した時代ごとの社会背景にも紙幅を割いた。

 「私も由緒正しい奉行のような育ちではないですし、江戸時代に生まれれば犯罪者になっていた可能性も。そう考えれば、そっち側の心情に強く思いが向きます。旅好きですから、日本左衛門の逃走経路を鉄道に乗るなどしてたどったことも二、三度あります」

 筆をおけば一人の「じいじ」。茨城県内の自宅に一人暮らしで、年数回、岐阜にいる二人の孫と会うのが何よりの楽しみ。火盗改の世界とは対極の無邪気さに頭がリセットされれば、次の構想を練る力も湧くというものだ。集英社新書・八二一円。 (谷村卓哉)

 

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