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【書く人】

「貧困は悪」合意形成を 『現代貧乏物語』早稲田大教授・橋本健二さん(57)

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 河上肇が一九一六年に『貧乏物語』を新聞に連載してから百年、彼を心の師と仰ぐ橋本健二さんが『現代貧乏物語』を刊行した。河上は第一次大戦の戦時景気に沸く中で顕在化した貧乏を「社会の大病」と呼び、その実態と原因、解決策を熱情をもって説いた。続編と言える本書もこの構成を踏襲し、深刻化する現代の格差と貧困の解消を熱っぽく訴えている。

 『貧乏物語』は翌一七年に出版されるとベストセラーになり、社会に大きな影響を与えた名著だが、なぜいま河上肇なのか。「彼は当時の最先端の経済学者ですが、単に研究の成果を発表するとか、知的な刺激を与えようとしてこの本を書いたのではない。貧困は悪なのだということを人々に理解させ、世を動かし、貧困を根絶しようとした。私もその戦略的な姿勢に学びたいと思ったのです」

 長い戦争を経て一層貧乏になった日本は、一九六〇年頃から高度経済成長によって貧困率が低下し、格差も縮小した。しかし、八〇年頃から格差が拡大に転じて貧困が深刻化、二〇〇五年には「格差社会」が流行語になった。

 橋本さんは本書で、各種統計をもとに現状を詳しく分析しているが、深刻なのはやはり母子世帯と非正規労働者だ。正規雇用との格差が著しい非正規雇用について、「何が問題かというと、非正規労働者は結婚できない。家族を持つことができない。これが少子高齢化に歯止めがかからない理由だし、のちのちまで影響し続ける」と憂慮する。

 貧困を克服するために、まず必要なことは何か。橋本さんは「貧困はあってはならない」という合意の形成を挙げ、「機会の平等」論、「自己責任」論など、格差拡大を正当化する考え方を論破。そして、貧困の解消と格差縮小を実現する方法として、最低賃金の引き上げ、富裕層への課税強化などを提案している。

 今すぐにできることを尋ねると、「労働時間の短縮とワークシェアリング」だと答え、こう続けた。「日本ではサービス残業という慣行もあり、労働時間を短くすることは合意が得られやすいと思う。労働時間が減れば収入が減ることを正規労働者が甘受できるかという問題があるけれども、短縮できれば雇用が増え、非正規労働者を正規労働者に転換できるのです」

 弘文堂・二一六〇円。

 (後藤喜一)

 

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