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【書く人】

隠れていた思い見えた 『世界はもっと美しくなる 奈良少年刑務所詩集』を編集 作家・詩人 寮美千子さん(61)

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 「詩を媒体にして、お互いの心を分かち合う。そんな体験を初めてしました」。奈良市の奈良少年刑務所で二〇〇七年から昨年九月まで、詩を取り入れた更生支援授業の講師を務めた。本作は受刑者の作品をまとめた二冊目の詩集。計九十八編を、授業を振り返る文章とともに収めた。

 授業の対象は、特に人間関係や作業能力に問題を抱える受刑者で、二十代前半が中心だった。東京から奈良へ移住して間もなく刑務所関係者から協力を頼まれ、「本当に詩が書けるんだろうか」と恐れと不安を抱えてスタート。しかし目にしたのは詩をきっかけに少しずつ心を開き、作品に込めた思いや感想を語り合う姿だった。「授業中に涙が出ることもありました」

 表題の元になったのは「獣の心」という詩。「人さえ獣であったなら 世界はもっと美しくなっていただろうに/人さえ獣であったなら こんなにも苦しくなくて 済んだだろうに」。高い知能を持つがために罪を犯す人間の醜さを、鮮烈に表現していた。

 こんな詩もある。「刑務所は いいところだ/(略)三度三度 ごはんが食べられる/お風呂にまで 入れてもらえる」。一見のんきな言葉の裏に、育児放棄で満足な食事ができず、コンビニの廃棄弁当を盗んで育った経験があった。

 「技巧を尽くした詩とは全然違う。でも、そこには本当に言いたいことが隠れている。それを会話で引き出し、受け止めると彼らは安心するんです」。脈絡なく話し続ける癖や頻繁に筋肉が収縮するチック症状が、授業を続けるうちに治まった人もいた。

 詩集にしたのは「詩を通して作者一人一人に出会ってほしい」との思いからだ。多くの詩に書かれているのは寂しい子ども時代、両親の愛の渇望、そして自分を責める言葉。「少年法の厳罰化を求める声もありますが、重い罪を犯した人にも優しい心はある。どんな人も変われると信じたい」

 一九〇八(明治四十一)年築のレンガ建築でも知られる奈良少年刑務所は、本年度で廃庁となる。授業の経験を多くの場で生かすのが次の目標だ。青少年自立支援施設で授業をするほか、一般向けの講座も計画中。「誰でも人に言えない苦しみを抱えていると思う。詩で分かち合えば、きっと生きやすくなります」

 ロクリン社・一七二八円。 (川原田喜子)

 

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