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【書く人】

驚き続き、奇跡の復帰作 『JJM 女子柔道部物語(1)』 漫画家・小林まことさん(58)

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 「この作品が生まれたのは奇跡」。取材の第一声でそう明言した。

 前作を描き終えた二〇一四年、実はこっそり引退していた。『1・2の三四郎』や『ホワッツ マイケル?』などコメディータッチの名作を送り出してきた。中でも高校時代の部活の経験を基にした『柔道部物語』は古賀稔彦さんら経験者にファンが多く、“柔道家のバイブル”と呼ばれる。だが「描ききった。口先だけではなく、何の未練もなく辞めた」。

 ある時、友人の勧めでフェイスブックを始めた。すぐにファンに見つかり一日百件以上の友だち申請が届いた。その一通に目がとまった。「柔道部物語のファンでした。おかげさまで金メダルが取れました」

 差出人は恵本裕子さん。一九九六年のアトランタ五輪で日本女子柔道初の金メダルを獲得し、その後一線を退いていた。「ずっと表舞台に出てなかった人。最初は気付かなくて、本当にびっくりした」

 だが、驚きは連続する。共に横浜市在住で徒歩一分の距離に住むご近所同士だった。何度か会って会話するうち、小林さんは彼女の“柔道物語”を聞く。

 高校入学後、テニス部へ。親に二万円のラケットを買ってもらったのに、「蚊に刺される」と一日で退部。二学期になり「やせるよ」と友人に誘われたのが柔道を始めたきっかけだった。社会人に進んでも初めての世界選手権はわずか十一秒で初戦敗退。ところがその一年後の五輪で金メダルを取るのである。

 「子どものころからメダルを目指して、激しい稽古を続けてきたっていうのが普通だと思うんだけど。とにかくメダルを取るまで『えっ』の連続で、こちらの予想は全て覆されました」

 こうして恵本さんをモデル兼原作者に、自身が脚色・構成・作画を務める連載は昨夏、講談社の漫画誌「イブニング」で始まった。第一巻では恵本さんは柔道を始めたばかり。金メダルを取るまでを描くつもりだ。

 分業が当たり前の漫画の執筆で、一人で描くことにこだわってきた。そのぶん作業量は増え、徹夜生活が体にこたえるようになったのも引退の理由だった。

 「いまでも本当は描きたくない」と苦笑いするが、「これだけの話が手付かずのまま残っていたのも奇跡。面白くないと思ったら描いてない」。復帰作には誰よりも自分が手応えを感じているように見えた。

 講談社イブニングKC・六三七円。 (森本智之)

 

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