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【書く人】

次世代へ意思のバトン 『言葉はこうして生き残った』編集者・河野通和さん(63)

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 河野さんは新旧の中央公論社に三十年、一貫して編集畑を歩み、『婦人公論』『中央公論』の編集長を歴任した。思うところあり、五十四歳で退社。二年後から新潮社で雑誌『考える人』の編集を六年以上務めてきた。本書は『考える人』慣例の編集長メールマガジンに載せた三百本の文章から選んだエッセー集だ。

 「他社から来た落下傘の編集者でしたし、メルマガも身辺雑記ではなく、読者や執筆者や編集部の同僚たちに向けて、自分はこんな本を読み、こんな考えを抱いてきたことを表明しようと、真剣に取り組んだ」

 それを刊行元の編集者が読み、いくつかの主題に丁寧に振り分けた。折々に読んだ本を紹介し、四十年の編集経験を介しての、出版社や出版人や出版文化の歴史、装丁や誤植や古書など本や雑誌についての蘊蓄(うんちく)やこぼれ話、野坂昭如さんら付き合ってきた数多くの作家たちの逸話や回想…。

 何より、戦争や災害や苦難に向き合って発せられた人の言葉が歴史や時代のなかでどんな運命をたどり、どう伝えられてきたかについての考察。「それらの言葉が本や作品としてどう書き残され、編集者はその言葉をどのように読者に届けるかという往復運動を、自分なりに確認した」。書名にこめた思いに違いない。

 だが、本書の刊行とほぼ同時に皮肉なタイミングで『考える人』の休刊が決まった。さまざまな物書きが集い、知や分野を横断して軟らかく耕した言葉で伝える教養誌を目指してきた。「ネットやITの時代となり、総合的な知や言論がだんだんなくなってゆく。この本で展開した思いが波にさらわれてしまったようで、とても残念です」

 「逆にいえば、そんななかで出版や言葉に対する、自分の意思を残した本が出せたことはよかった」。言葉は人間や歴史への見方を表し、自己実現や成長の手助けとなり、時代や社会への批判の防波堤も築く。そんな言葉への期待やリテラシーがいたるところで展開されている。

 近代の出版文化も百年以上の歴史を重ね、構造的な不況やIT化などの過渡的な危機と同時に、読者や執筆者の裾野が拡張し、創意あふれるテーマが展開される成熟の相も見せている。「本の生命と役割は変わりません。言葉は人生ですから、次世代へバトンをつなげる希望もこめました」

 ミシマ社・二五九二円。

 (大日方公男)

 

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