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【書く人】

破滅型刑事を魅力的に『悪魔の星』(上)(下)  ミステリー作家 ジョー・ネスボさん(56)

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 岩登りで鍛えたお腹(なか)は真っ平ら。来日して早速、静岡県伊東市の城ケ崎海岸で登ってきたという。「とても良い感じだったよ。岩は場所によって全部違う。人間も岩も、表面を見ていても分からない。手を伸ばして触らないとね」

 ノルウェーを代表するミステリー作家だ。刑事ハリー・ホーレが主人公のシリーズが、世界三十カ国以上で累計二千万部を超える大ヒット。先ごろ一作のハリウッド映画化が決まった。

 シリーズ五作目で文庫初訳となった本作は、オスロを舞台に、指が切断された女性の遺体が次々に見つかる。その連続殺害事件の謎解きが、息をのむような展開で繰り広げられる。読後、まさに大スペクタクル映画を一本見終わったような感覚に包まれる。

 ハリーはオスロ警察で最も腕の立つ一匹狼(おおかみ)の刑事。だがアルコール依存症で、生活は破綻している。常軌を逸して仕事に執心し、恋人からも別れを告げられる。孤独や痛み、弱さを象徴するような人物像に、読者は引き込まれていく。

 一方、作家本人はだいぶ違う。大学時代に趣味で音楽バンドを始めた。就職した後に出したセカンドアルバムが、ヒットチャートの一位になり大ヒットした。作曲とボーカル担当だったが「音楽を仕事にしたくなくて」、仕事は続けた。

 勤務を終えたあと音楽ツアーに出演する多忙な日々に疲れ果て、燃え尽き症候群になった。長期休暇をとってオーストラリアへ。逃避行の最中、小説を書こうと思い立った。

 幼い頃、身の回りのものから想像を広げ、お話づくりに没頭した。携帯パソコンを開くと、そのときのように「手が止まらなくなった」。昼夜を徹して書いた小説が一九九七年に出版されるや、北欧の最も優れた推理小説に贈られる「ガラスの鍵」賞を受賞した。

 これがハリー・ホーレシリーズの第一作。そして、あっという間にベストセラー作家になった…とくると出来過ぎの感さえある。

 ハリーは仕事一筋の破滅人間。何度も約束を破られ、傷つけられた元恋人の女性は、それでもハリーに見つめられてこんなふうに感じる。子どものような、その優しいまなざしにあるのは「確かな純真さ、堕落していない正直さ。信頼したいと思わせる何か」。

 「なんて魅力的なダメ男なんでしょう」と作家に言うと、「ハリーに伝えておくよ」と返事があった。

 戸田裕之訳。集英社文庫・各八六四円。 

(出田阿生)

 

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