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【書く人】

世界をちょっと面白く 『今日の人生』 イラストレーター・益田ミリさん(48)

 買い物先での店員の温かい言葉や、隣から聞こえてくる不思議な会話、目に入った面白い風景−。何げない日々の出来事に接して、思わず笑ったり、幸せを感じたりする時がある。そんな瞬間を、写真のように切り取って描いたコミックエッセーだ。ミシマ社のウェブマガジンに連載中の作品を、四年分まとめた。

 「読んだ人が私の漫画というフィルターを通して、ちょっと世界を面白く見られたらいいな」。イメージしたのは、大好きだという写真家・梅佳代(かよ)さんの作品。身の回りの些細(ささい)だが気になるものを絶妙に写し取る彼女の作品を見て「世界の見方が変わった」という。

 気付いた出来事を日記のような感覚で書き継いだ。数コマで終わる日もあれば、四十コマ以上書き込まれる日も。嫌な人についてあれこれ考えを巡らせる日もある。人生とはかけがえのない一瞬一瞬の積み重ねであることが、励ましとなって読者に伝わってくる。

 「人生は連続していますが、日付をまたげば明日の私がいる。つらいことがあった日には、明日の私に任せて何とか乗り越えよう。そんな思いも込めたタイトルです」

 本のつくりが凝っている。日々移ろう人の心を現すように、赤、緑、青と紙の色が途中で変わる。「昨夜の夢」のコーナーは黒色の紙。「夢の中では、友人がカマキリを食べ始めても受け入れる。眠っている時も私の人生の一部分です」

 これまでの作品で読者におなじみの父親が、連載中に八十二歳で亡くなった。本書の終盤、その事実が明かされる。「父が死ぬまでのつらい時間の中でも、スーパーでスマホを見ながらカートの列の中に入っていく人を見ると、ちょっと面白いって思う。人は一つの感情で生きているわけではない。小さな気持ちが集まって自分の感情ができているんだと思えました」

 三十代独身女性たちの揺れる心情を描いた「すーちゃん」シリーズや、週刊文春に連載中の「沢村さん家(ち)のこんな毎日 平均年令60歳」などで知られる売れっ子だ。「創作漫画と自分のことを書く漫画に、エッセー。そのバランスが取れていて、自分でもあきないです。未来の自分がどんなものを書いているのか興味がある。できるだけ長く書いていければいいなと思っています」

 ミシマ社・一六二〇円。 (石井敬)

 

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