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【書く人】

生活を種にじわじわと『私をくいとめて』  作家・綿矢りささん(33)

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 もうすぐ三十三歳になる会社員のみつ子は、気ままな一人暮らしに満足している。寂しさを紛らわせ、時に的確な助言をくれるのが、脳内に棲(す)まわせた「A」という異性。しかしみつ子の現実に気になる男性が現れ、平坦(へいたん)な毎日を少しずつ変えてゆく。

 十八歳で上京し、十年ほど一人暮らしをした著者の体験が下敷きだ。長年「おひとりさま」だった記憶が頭に刷り込まれているという。「今も見る夢は一人設定なんです。当時は『生活』すぎて気にしなかったけど、思えば小説の種がいっぱいあったなぁと」

 もともとプロットを固めず、筆が進むに任せるタイプだ。「最初は『一人でもいいじゃない』って話になるかと思ったんですが、書き終えてみるとちょっと違った」とか。これまでの作品はためにためたストレスがはじけるような起伏があったが、本作の書きぶりは落ち着いている。

 構想から脱稿までの間、自身に結婚、出産という大きな出来事があった。「今まで理想から外れたら怒るような人を書いてきたけど、そういうのは無くなったかも。どの人にも親がいるって思うと、あんまり厳しく見られなくて…」。激しさや揺れ動くものに向けられていた興味が、少しずつ日常のちょっとしたことに移ってきたという。

 『蹴りたい背中』で芥川賞を最年少受賞してから十三年。プレッシャーで書けなくなる“暗黒時代”もあったが、今は創作意欲が高い。「構想を温めたりせず、書きたいときにちゃんと書きたい。文章が塊で出てくる時に」という。

 子どもが一歳半になり、やっと本を読む余裕が生まれた。これまで「自信を持って書けるから」と、同世代の同性の視点で身の回りの世界を描いてきた。いずれ子育ても題材にと思うが、焦りはない。「あまり早くテーマにしちゃうと、ふわっとしたものになっちゃう。できれば経験を積んでからじわじわいきたいな」

 公私ともに充実した様子の笑顔を見せる。今は「おひとりさまはよくない」と感じますか? と尋ねると、古里の京都なまりでやんわり答えてくれた。

 「うーん、いいか悪いかじゃないかな。こういうふうに生きたいっていうんじゃなくて、気がついたらこうなっていたっていうのも大切だと思う」

 朝日新聞出版・一五一二円。 (岡村淳司)

 

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