東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > Chunichi/Tokyo Bookweb > 書く人 > 記事一覧 > 記事

ここから本文

【書く人】

まず教育が必要『ナビラとマララ「対テロ戦争」に巻き込まれた二人の少女』 現代イスラム研究センター理事長・宮田律(おさむ)さん(62)

写真

 表題になった二人の少女。ノーベル平和賞を受賞したマララさんは世界的に有名だが、ナビラさんの方はどれだけ知られているだろうか。同じパキスタンの部族地域出身で、ともに「対テロ戦争」の被害者。マララさんは二〇一二年、十五歳のときに武装勢力パキスタン・タリバン運動(TTP)のメンバーに銃撃され、重傷を負った。同じ年、九歳だったナビラさんは、アメリカ軍の無人機「ドローン」から発射されたミサイルによって祖母を失い、自分も大けがをした。

 「マララさんは当時のオバマ大統領夫妻とホワイトハウスで懇談したのに、ナビラさんが米国議会の公聴会でドローン攻撃をやめるよう訴えたときは下院議員が五人集まっただけで、ほとんど関心も示されなかった。扱いが大きく異なるのは、マララさんの加害者がアメリカの敵であるTTPであり、ナビラさんたちにミサイル攻撃したのは米国のCIAだったからです」

 イスラム地域研究が専門の宮田さんは二〇一二年、イスラム社会と日本の懸け橋になるため、現代イスラム研究センターを設立。一五年にナビラさんを招いて開いたシンポジウムで、「なぜ戦争ではなく、教育にお金を使わないのですか」と訴えた彼女の言葉に動かされ、本書を執筆した。

 マララさんを銃で撃ったTTPは「女性が教育の権利を求めるのは反道徳的だ」と主張したが、それはイスラムの教えに反すると言う。「コーランは公正や平等を説き、女性を差別していない。そして神の創造物である人間を殺すことを厳しく戒めているのに、TTPもイスラム国(IS)も自分たちに都合よく、勝手に解釈しているのです」

 昨年刊行した『オリエント世界はなぜ崩壊したか』(新潮選書)では、古代オリエントで初の大帝国を築いたアケメネス朝からイスラム化したオスマン帝国まで、領土内で他民族の自治や信仰の自由を認めるなど「寛容」の伝統があったことを詳しく論じている。

 宮田さんは「9・11から十六年になるが、軍事力では何も解決できなかった」として、こう語る。「イスラムも非イスラムも、寛容にならなければ。ナビラさんやマララさんが訴えるように、いま必要なのは教育です。多様な価値観を認め合う教育によって社会が安定し、健全な経済がつくられる。貧しさからTTPやISなど過激な武装組織に入る若者も減るはずです」

 講談社・一二九六円。 (後藤喜一)

 

この記事を印刷する

PR情報



ピックアップ
Recommended by