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【書く人】

日本人が受けた恩恵『儒教の歴史』 中国思想史家・小島毅さん(55) 

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 紀元前の中国で誕生し、日本や韓国、ベトナムなど東アジアに広がった儒教の通史を一人で書き切った。「共同執筆だとどうしても文体や主張が違って読みにくいので、自分で全部を書けないかお願いしました。蛮勇ですね」と笑う。

 本書は儒教の倫理・道徳の教えだけでなく、「礼楽」と呼ばれる祭祀(さいし)や儀礼の教説を丁寧に追う。現代の中国や台湾でも礼楽の宗教性は注目されず、「儒学」「儒家思想」と呼ばれることが多い。「儒教は仏教、道教と並ぶ『教(きょう)』なんだと知ってほしいと思います」

 専門は中国宋代(九六〇〜一二七九年)の儒教。紀元前五、六世紀の孔子を祖とする儒教は、宋代に変質し、朱子学(しゅしがく)を形成する。

 朱子学は「聖人学んで至るべし」と説く。従来は理想的為政者を指した「聖人」の概念を、誰もが学問を通して到達できる人格者の意味に変えた。明代(一三六八〜一六四四年)には朱子学の影響を受け、読書よりも行動による学びや実践を尊ぶ陽明学(ようめいがく)が生まれる。

 本書には朱子学と陽明学が明治維新に果たした役割も語られる。幕末の思想家の佐久間象山(しょうざん)や横井小楠(しょうなん)は朱子学の素養をもとに近代化を構想した。倒幕を企てた吉田松陰や西郷隆盛には行動主義的な陽明学の影響がみられるという。暴力が横行した明治維新に自身は批判的だが、「私たちが営んでいる生活の起源をたどっていくと、儒教の恩恵を被ったのは確か」と語る。

 中国に関しては習近平国家主席の儒教観までを論じ、「儒教は今再び中国の国教として復活しつつある」との見方を示す。儒教が弾圧された一九六〇〜七〇年代の文化大革命の時代とは打って変わって、「今の中国は儒学研究に巨額の国費を投じているんですね」。

 一方、「日本では儒教がまともに論じられていない」と嘆く。いま部数を伸ばすケント・ギルバート『儒教に支配された中国人と韓国人の悲劇』(講談社+α新書)には、特に手厳しい。「中国と韓国は儒教だから駄目だと。日本とは本質的に違うという書き方をしているけど、儒教の何がいけないのか彼は全く言っていない」

 確かに、日本には中国、韓国ほど儒教は深く根付かなかった。「それは中国人、韓国人と日本人に本質的な違いがあるからではなく、歴史のいきさつがあるからです。そう単純じゃないと知っていただければと思います」

 山川出版社・三七八〇円。 (小佐野慧太)

 

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