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【書く人】

内面を開放する物語 『間取りと妄想』作家・大竹昭子さん(66)

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 住宅の部屋の配置を多様な視点から考える「間取り本」がブームの中、本書は「世界初の間取り小説集」との触れ込み。ミステリーの密室トリックのように間取りが小道具となる小説はあっても、間取りから立ち上る物語ばかり集めたのは珍しいというわけだ。

 しかも、最終話を除く十二編に間取り図が付く。間取り好きの「マドリスト」を自任する著者が描き出す空間は、舳先(へさき)のような三角形の部屋だったり、玄関を入ると正方形の三和土(たたき)にドアが二つあったりと、どこか逸脱している。著者の素案を、建築に詳しいイラストレーター、たけなみゆうこさん(38)が実際に建てられるよう清書した。

 そこを舞台に紡いだ物語では「人間の生命観を強調した」という。それは間取りを人間の体のメタファー(隠喩)と考えるからだ。例えば収録の一編「仕込み部屋」の主人公は、船室のように窓のない小部屋で身の毛もよだつ物語を書く行為を通じ、人前では見せない残酷な感情を発散する。

 「人は自分の心の中にいろんな間取りを持っている。皮膚でその間取りが覆われ、表情からは内側がうかがいしれない。現代の人は内側にエネルギーがこもり、それがうまく外に出ていない気がする。内側にある間取りが物語によって開放され、人間が本来持っている生命力が強まり、放たれていけばいい」。マドリストでありながら、意外にも、最後は外の世界へと向かうというのだ。

 根っからの東京人。社宅住まいだった小学生の頃から、方眼紙に間取り図を描いて遊んだ。折り込みチラシや不動産屋の張り紙の間取り図に見入った。

 「玄関はこんな感じかな、こう曲がるってことは体の向きはこうなる…カメラになったような気分で、その部屋に初めて入るときの感覚を自分の中でトレースするんですよね。映画を撮るみたいに想像するのが好きなの」

 散歩中には、通り掛かった家の間取りに思いをはせる。妄想が膨らむのは、街のディテールが消え無彩色になり始める薄暮だ。「街にも間取りがある気がする。行くと心地良いとか、場所によって違う感情を刺激される。あの町のあの部屋に行ってみよう、そんな感じです」。最終話「夢に見ました」には、そんな自伝的要素をちりばめている。

 亜紀書房・一五一二円。 (谷知佳)

 

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