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【書く人】

我流でも面白ければ 『ゾッキ』A・B 漫画家・大橋裕之さん(37)

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 まるで落書きのような絵のギャグマンガ。読みながらさっきまで笑っていたはずなのに、あれ? 哀(かな)しくなってる? 例えるなら、思春期のころの忘れていた感情を思い出させてくれるような。頼りなくて、世間とずれた登場人物たちがしょうもなくて人間くさい物語を繰り広げる。そこに、いつかのダメな自分を思い出すからだろうか。

 武田砂鉄さんや又吉直樹さんら文化人にもファンの多い「大橋ワールド」を紡ぎ出す著者の、自費出版時代の二冊の初期作品集だ。

 愛知県蒲郡(がまごおり)市出身。高校卒業時に漫画家を志した。漫画少年だったとはいえ、「落書き程度の漫画」しか描いたことがなかった。人生の節目の決断は「雑誌の新人賞の作品を見たら、僕でもできると思いまして」。

 ペンの使い方すら分からない。誰かのアシスタントになるわけでもなく、バイトをしながら自己流で机に向かう日々。「進学も就職もせず、何ですかね、ごまかしてたんですかね、人生を」とはぐらかすが、当時を振り返った自伝漫画『遠浅の部屋』には、描くことへの衝動があふれている。

 青年誌の漫画賞で佳作を取るが後が続かない。編集者との打ち合わせで「分かりやすく」と次々に描き直しを求められる。描きたいものが描けない。若い情熱に水を差すような現実とのギャップに心を擦り減らし「やめます」と伝えた。

 だが、描くことはやめられなかった。地元の競艇場で設備管理の仕事をしながら、自費出版を始めた。「ネタはどんどん浮かんできました。自分のやろうとしていることが人に取られたらどうしようかと焦るくらい」。全十巻の「週刊オオハシ」など二〇〇五年から五年で計十三冊に及んだ。

 実はこのころ商業誌の連載はもうあきらめていたという。転機になったのは水木しげるさん夫妻の半生を描いたNHKの連続ドラマ「ゲゲゲの女房」。「四十歳で花開いてなくてそれでも描いている水木先生を見て自分もやらなきゃと」。知り合いの編集者にダメ元で持ち込むと、初めての漫画誌での連載が決まった。

 涼しげなルックス、ひょうひょうとした語り口とは裏腹の情熱で、孤高の漫画道を歩んできた。道具の使い方も知らずに机に向かった初期について「内容がおもしろければ、教科書的なことはどうでもよいと思ってました」というひと言はとりわけ印象的だった。

 カンゼン・各一四〇四円。

  (森本智之)

 

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