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【書く人】

庶民の意識映して地域差 『江戸の瓦版』 大阪学院大教授・森田健司さん(42)

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 知っているようで知らない「瓦版」の正体に迫った。社会思想史を専攻し、江戸時代の庶民の生活文化や頭の中を映す鏡として研究を深めた成果を、論文や専門書より先に新書で惜しみなく披露している。

 先行研究が少なく、定義もあいまいだった瓦版。その源流は江戸初期にまでたどることができ、おそらく明治末期まで脈々と発行され続けたとみている。面白いのは、ほぼ一貫して非合法出版物だったこと。

 「情報の独占で、権力基盤を安定的に維持したかったんでしょう。江戸幕府は五回、六回と禁止令を出しています。ただ取り締まりも面倒ですし、実際は努力目標ぐらいの感覚で、幕政批判など絶対に許されない話題以外は黙認状態でした。売り子も空気を読み、編みがさなどで顔を隠すことで見逃してもらう。記録上、本当に捕まったのは数人です。火事の被災状況などは関心が高く、禁ずる側の武士も結構買っちゃっています」

 来年が明治維新から百五十年に当たり、あらためて江戸の世を振り返る機運が高まっているのか、近ごろテレビ番組や講演に引っ張りだこ。副収入をつぎ込み、瓦版の収集に精を出す。

 本書で掲載した図版もすべて自らのコレクション。一八五五年の安政江戸地震に関し、読者が日付と名前さえ書き込めば国元に無事を伝えられる手紙となるもの、“ネタ元”が各地から情報の集まる飛脚問屋だったことや海賊版の横行を裏付けるものなど、これまで公には紹介されていない瓦版も扱っている。

 所蔵品は関連の史料を含め五百点近くになった。自宅では愛妻から「どこに置くねん」と怒られてばかりだが、さらに収集を進めてデータベース化し、商業出版にも研究にも自由に使ってもらおうと考えている。

 神戸市生まれで京都大に学んだ生粋の関西人。瓦版がどう作られ、どう読まれたのかを知ることが、より良い歴史観の獲得につながると力説する。「瓦版屋も商売。読者の意見に近いものを出したかったわけです。例えば、幕末の戊辰(ぼしん)戦争の報じ方も上方と江戸では異なるなど、地域色があった。義務教育で習う歴史は権力者や偉人の話が中心で、下々が何を面白い、悲しいと感じたかは見えません。歴史的事件を考える際、庶民の観点というものも絶対に必要だと思うんです」。洋泉社歴史新書y・一〇八〇円。 (谷村卓哉)

 

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