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【書く人】

異質な存在、見つめる 『望むのは』 作家・古谷田奈月さん(35)

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 今年の三島由紀夫賞の候補にもなった注目の書き手。新作は、ファンタジーの要素もある風変わりな青春小説だ。民族、種族を超えて「他者」とどう向き合うのかという、大きな問いが底に流れる。

 十五歳の女子高生を主人公に、隣家に住む同級生の歩くんらとの学校生活を描く。若い感性のきらめきが絶妙に表現され、それだけでも読ませるが、キモとなるのは別の部分。歩くんのお母さんが、ゴリラなのである。人の心を持ち、人間と結婚し、主婦になっている。小説世界では、ほかにも教師のハクビシンなど、社会の一員として暮らす動物が登場する。「たとえば普段の生活で、ちょっと変だなと感じる人っていますよね。そういう存在との距離の取り方が気になっていて。社会の中に、ぽんと異質なものがいる状況を書いてみようと思いました」

 多様性が大事、寛容さが必要。言うのは簡単だが、もし実際に、ゴリラの隣人がいたら、果たして自分は何を思い、どんな行動を取るだろう。「怖いと思う気持ちや、違和感が、どうしてもぬぐえない人もいる。見た目で判断してはいけないとか、聞こえのいい言葉でフタをしても、そこは解決しないと思うんです」

 外見至上主義と訳される「ルッキズム」にもつながる根深い問題だ。世間で正しいとされていることに無自覚に従うのではなく「自分の中にあるマイナスの感覚も認めた上で、対等に付き合いたい」。登場人物たちのやりとりからも、その願いが伝わる。

 迷いながら成長する主人公は、十代のころの自身を投影しているという。「十五歳までに何かしないと終わりだと思い込んで、すごく焦っていました」。中学二年から不登校に。「書くことが好きという自覚はずっとあったんですが。学校に行く必要性や受験の意味は、考えても分からなくて」。通信制の高校をへて大学へ。アルバイトをしながら小説を書き、作家になったのは三十一歳の時だった。

 三島賞候補に選ばれた前作『リリース』では、リベラル化が進んで男女の優位性が反転し、異性愛者が差別されるようになった社会を描いた。問題と向き合うまなざしは、今作にも通じる。「もし世の中の規範と違ったとしても、自分にとっての違和感を小説にしていきたい」

 新潮社・一六二〇円。 (中村陽子)

 

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