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【書く人】

はしごで深まる学問 『日本の夜の公共圏 スナック研究序説』 編著者 首都大東京教授・谷口功一さん(44)

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 どんな地方でも、夜のちまたにそのネオン看板はきっとある。行ったことがなくとも、見たことがない人はいないだろう。ところがこれまでは全国に何軒あるのかさえ不明だった。そんなスナックの「本邦初の学術的研究本」である。

 大分・別府の生まれ。自営業の父が地域の会合で出かけていたのがスナックだった。三十歳を過ぎて自分も通うようになり、ふと疑問に思った。「お酒を飲むところなのにどうしてスナック(軽食)なんだろう」

 調べてみたが分からない。そもそも関連の本自体がほとんどない。「それなら自分でと。学者だからやっぱり調べちゃうんですね」。専門は法哲学。傍ら、二〇一五年には知り合いの学者九人に声をかけ「スナック研究会」を結成。サントリー文化財団の助成を受け研究を進めた。

 月に一度の会合は行き着けの店で。メンバーは政治学、行政学、政治思想史など一線の学者だが、スナック愛好家というわけではなかった。その様は本書「序章」の言葉を借りれば、「一流アスリートを集めて、まだ誰もやったことのない競技のルールを口頭で説明し、おのおの理解した限りの自己流で、その競技をやってみ(る)」。時にママの助言を受けながらできあがった一冊は「ここまで調べるかという本になった」。

 「スナック」が生まれたのは一九六四年東京五輪のころだった。世界的イベントを前に、酒だけを出す深夜営業の店は規制の対象に。対抗策として「軽食」を出すことで「スナックバー」を名乗るようになったのが始まりらしい。その数は全国約十万軒。「田舎ではスナックが多いほど犯罪が少ない」という興味深いデータも明らかになった。

 スナックは酒を飲むだけの場所ではない。カウンターにママがいて、そう広くない店内で客同士肩寄せ合う。飲めない人でも楽しいのは、年齢や職業を超えたおしゃべりがあるからだ。「ぐたぐだでもみんなで集まって、何だかよく分からないけど話し合って合意したりする。イギリスのコーヒーハウスとも違う、日本独自のコミュニティーの場じゃないでしょうか」

 本書を学術書と強調したのには訳がある。「スナックとはこんな立派な研究の対象になるんだと誇りたかったんです」。研究を兼ね、出張の際は一晩で三軒のはしごを自らに課す。余技のつもりはない。二冊目の準備も進めている。白水社・二〇五二円。 (森本智之)

 

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