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【書く人】

日本の閉塞感を逃れて 『だから、居場所が欲しかった。』 ノンフィクションライター・水谷竹秀さん(42)

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 なんとも苦しい現実を浮かび上がらせるルポルタージュだ。東南アジアで暮らす日本人をこれまでも数多く取材してきたこの人が「思いがけない話ばかり出てきて、聞けば聞くほど離れられなくなった」と、本書のテーマにのめり込んだ経緯を振り返る。

 描かれているのは、タイに渡り、バンコクの「コールセンター」に勤める人たち。あまり知られていない仕事だが、日本の通販会社などの電話応対が、経費の安いアジアの国で外注されている。このうち、タイでは最低賃金の適用も除外された低い給与で、日本人のオペレーターが雇われている。多くは、就職氷河期を体験し「失われた世代」とも呼ばれる三、四十代だ。

 なぜ彼らはそこで働くことになったのか。それぞれが抱える事情と、現在の思いを丹念に聞き取り、自らの戸惑いも隠さずに文字にした。「海外で英語や仕事のスキルを身につけるぞ、というキラキラした感じとは全く違う。社会の荒波からこぼれ落ち、敗者復活戦にも乗れない人が集まっていました」

 借金に追われ夜逃げ同然に移住した男性、買春相手の男性の子を妊娠した女性…。ギリギリの暮らしをしながらバンコクでの仕事の「気楽さ」を語る人々の姿からは、日本社会の閉塞(へいそく)感が逆照射される。「先行きの不確かな生き方に、自分を重ねた部分もありますね。僕も、ずっとフィリピンでやってきたので」

 三重県桑名市の生まれ。上智大卒業後、スタジオカメラマンなどを経て、マニラの邦人向け新聞の記者になった。その傍ら独自の取材を続け、二〇一一年に「邦人ホームレス」について書いた『日本を捨てた男たち』で開高健ノンフィクション賞を受賞。現在も、日本と行き来しながらルポを発表している。「新卒で就職した友人は、家庭を持ち、出世もする年ごろ。でも日本は一度そういう道を外れたら、戻ることはすごく難しいですよね」

 息苦しさを脱しようと、タイを選んだ人たち。だが、たどり着いた地は、果たして「居場所」と言えるのだろうか。一気に読み終えた後、その問いが、いつまでも頭をめぐる。

 「ノンフィクションの書き手として、日の当たらないところで生きる人を取りあげなくちゃという気持ちがある。アジアの片隅から、日本社会を描きたい」

 集英社・一七二八円。 (中村陽子)

 

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