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【書く人】

性差別の価値観 根底に 『男が痴漢になる理由』 精神保健福祉士・斉藤章佳さん(38)  

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 これは、おそらく日本で初めての、痴漢についての専門書である。「チカン?」と笑った、そこのあなた。あなたこそが、この本を読むべき人です。目からウロコがぼろぼろ落ちます。

 「痴漢=性欲の強い異常な犯罪者、ではありません。痴漢は依存症の一種で、治療できます」。そう話す著者は精神保健福祉士として、都内のクリニックで性犯罪者の「再犯防止プログラム」に取り組む。昨年末までの受講者は千百十六人。現場での経験と考察を、この一冊にまとめた。

 どこの国でも性犯罪は起きるが、日本ほど公共交通機関で性暴力が頻発する国はない。満員電車が元凶だが、来日してから痴漢を覚え、逮捕された何人もの外国人に出会った。

 「社会が痴漢の実態を知らないからこそ対策がとられず、結果として痴漢大国になっている」と斉藤さんは言う。斉藤さんらの再犯防止プログラムの受講者はまじめなサラリーマンばかり。調べてみると加害者の平均像は「四大卒・会社員・妻子あり」だった。

 痴漢の動機は、過剰な性欲ではなく「ストレスへの対処」なのだという。聞き取った加害者二百人中、過半数が「行為中に勃起していない」と答えた。セックスレスとも関係なかった。実際の回答は「決算期で忙しくなるとやってしまう」「上司に叱られた日は必ず痴漢をする」…。「仕事を一週間がんばったら痴漢してもいい」と話す加害者もいた。スポーツで汗を流す、友達に愚痴を言うといった発散法の代わりなのだ。

 相手を自分の思い通りにできる快感が、ストレスを消す。弱い他者を支配することで優越感が持てるからだ。社会にはびこる「男は女よりも上」という性差別の価値観が彼らを支える。

 「痴漢はいじめと似ている。相手を人間だと思っていない」。被害者が受ける深刻な傷との落差はあまりに大きい。性犯罪で刑務所に入っても出所すれば繰り返す。再犯防止には適切なストレス対処法を身につけることしかないが、治療の選択肢が知られておらず、被害者が増えていく。

 「全ての男性が潜在的に加害者になる可能性がある。ぜひ、男性に読んでほしい」。どんなに勇気を持って告発しても、痴漢は決してなくならない。「痴漢は病気。治療しましょう」というポスターを駅に張ってほしい。イースト・プレス、一五一二円。 (出田阿生)

 

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