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【書く人】

過疎地でのみとり描く 『満天のゴール』 作家・藤岡陽子さん(46)

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 「何かを成し遂げた人より、誰にも知られず踏ん張って生きている人にスポットライトを当てたい」

 看護師として働きながら小説の執筆を続ける異色の書き手だ。看護学生を描いたデビュー作『いつまでも白い羽根』から、シングルマザーのスポーツ紙記者が主人公の『トライアウト』など、ひたむきに生きる人々の姿をすくい上げてきた。最新作の本書では、過疎地域の終末期医療というテーマを選んだ。

 舞台は京都府北部の丹後地方の小さな町。夫に裏切られ、十歳の息子とともに故郷に戻った奈緒は、看護師として働きながら、孤独を抱える医師の三上と交流を深めていく。三上がへき地医療に従事する動機が、次第に明かされる彼の生い立ちと重なって、読者の胸を打つ感動作だ。

 執筆に当たり、過疎化の進む町を訪ね、医師を取材した。山間に住む高齢の患者を一軒一軒往診して回り、時にその最期をみとる姿に感銘を受けたという。「その先生の赴任後、町では自宅で亡くなる患者が倍増したそうです。取材の前は過疎地域で八十代、九十代の方が独居するのは難しいと思っていたが、周囲の力によって支えることができると実感しました」

 本書はまた、一人の女性の成長譚(たん)でもある。夫への未練を断ち切れず悲嘆に暮れていた奈緒は、守るべき息子のために一歩を踏み出す。「ちょうど私の周りで離婚した友人がすごく増えていて。つらさやしんどさを抱えながらも、たくましく生きる女性たちへのエールを込めました」

 自身も平坦(へいたん)とは言い難い道を歩んできた。大卒後、スポーツ紙記者となったが「光の当たらない人々の人生を書きたい」と、小説家を目指し退職。その後留学したタンザニアでは看護の道も志し、帰国して専門学校に進んだ。出産、育児をしつつ卒業。昼間働きながら、夜に執筆する生活を続けた。投稿作が編集者の目に留まり、デビューしたのは三十八歳の時だった。

 作家業が軌道に乗った現在も、週に一〜二回、脳外科医院で勤務を続ける。「看護師不足で辞めさせてもらえなくて」と笑うが、医療の現場で同僚や患者と接する経験は、作品にも生かされている。「人と人が関わることでいろんな思いが生まれる。これからも関わりの中で書き続けたい」

 小学館・一五一二円。 (樋口薫)

 

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