東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > Chunichi/Tokyo Bookweb > 書く人 > 記事一覧 > 記事

ここから本文

【書く人】

しとやかという偏見 『舞台の上のジャポニスム 演じられた幻想の<日本女性>』 西洋美術史家・馬渕明子さん(70)

写真

 芸者サイナラに思いを寄せる詩人のカミは、タイフーンという男と争ったのがもとで切腹を命じられる。しかし実は全て彼の愛を試そうとサイナラが仕組んだ芝居で、結局二人はめでたく結ばれる−。

 人名も展開も荒唐無稽だが、これは実際に一八七六年にパリで上演された喜劇「美しきサイナラ」。十九世紀末のパリでは、謎に包まれた極東の国・日本が、劇やバレエの題材として人気を集めていた。本書はそうした作品の数々の紹介を通して、当時の舞台芸術における日本観をひもとく。

 西洋美術史家として、浮世絵などが影響したジャポニスム(日本趣味)を研究してきた。館長を務める国立西洋美術館では今秋、自ら企画した「北斎とジャポニスム」展を開催。時を同じくして刊行された本書を「こちらのジャポニスムもぜひ知ってほしい」と語る。

 研究休暇でパリに滞在していた一九九九年、オペラ座の図書館の資料に「何だか変てこな名前の劇を見つけて」調べ始めたのが発端だった。図書館や古書店に通い、劇の解説や評論が載った雑誌などを収集した。画像が粗いものも多く、解読に苦労したうえ「絵画や彫刻のように形に残っていないし、先行研究もない。本になるまでずいぶん時間がかかってしまいました」。

 副題の通り、劇中で目立つのは、限られた情報を基に西洋が理想化した女性像だ。西洋人男性が母国と日本の女性の間で揺れ動く筋書きも多く、自立して教養を備えた西洋女性に対し日本人側は優しくかわいらしい、受動的な存在に描かれる。サイナラのような「ゲイシャ」もエキゾチックで魅惑的な存在として、まるで日本女性の代表格のように頻繁に登場する。

 二十世紀に入ると日本との接点も増え、こうした演劇は徐々に姿を消す。だが「幻想」の女性像は完全には消えなかった。「日本女性はしとやかで男性の思い通りになるという偏見は、今でも根強いものがあります」と指摘する。

 専門家として「賛美されている日本はすごいのだという視点だけでジャポニスムをとらえてほしくない」と願う。北斎が高い評価を受けて西洋美術に影響を与えたのと同じ時代に、幻想の対象として舞台で消費されていたもう一つのジャポニスム。「そういう歴史があったことも、この本で知ってもらえればと思います」

 NHKブックス・一七二八円。 (川原田喜子)

 

この記事を印刷する

PR情報