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【書く人】

「世直し」に光る特高の目 『出口なお・王仁三郎』 宗教学者・川村邦光さん(67)

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 <ひともよきよ(世)、わがみもよきよとを(お)もわな、このよわ(は)いけぬぞよ。つよいものがちのよであるぞよ。これでわ(は)このよわ(は)いけぬぞよ。(中略)よしわるしのみせしめ、あるぞよ>

 このような「筆先(ふでさき)」を二十万枚も書いたと伝えられる開祖・出口なお(一八三六〜一九一八年)。なおの五女すみと結婚して入り婿となり、聖師と呼ばれた王仁三郎(おにさぶろう)(一八七一〜一九四八年)。本書は、新宗教「大本」の二人の教祖の生涯と思想について物語る。

 川村さんは、艮(うしとら)の金神(こんじん)という神がなおの体内に宿って書かせたとされる筆先を丹念に読み解きながら、彼女の構想した世界に迫る。それは金持ちを大事にする「強い者勝ちの世」ではなく、「生まれ赤子の精神」になり、地上から生み出される作物によって、つつましやかな生活ができる「気楽な世」である。

 「心身を洗い清めることで世の中も変わっていく、と考えたところが面白い。心直しから世直しを展望する。素朴だが、誰も言わなかった民衆思想です。彼女は長い間、貧乏のどん底にいたので商業資本に対する拒否感が強かったのです。“土の思想”に行き着いたのは江戸時代への復古主義で、本拠地の京都の綾部周辺から外に広がらなかったのはそのためでしょう」

 一方、後継者となった王仁三郎は新聞などのメディアも積極的に活用して政治的な運動を展開し、全国、海外へと教勢を拡大させていく。一九三四(昭和九)年には国家主義的な団体である昭和神聖会を結成し、会員と賛同者は八百万を突破したともいわれる。

 この結果、大本は二回にわたり弾圧に直面する。特に二度目の三五年の事件では、治安維持法が宗教団体として初めて適用され、王仁三郎や幹部が検挙されたほか、王仁三郎の生地の亀岡と綾部にあった神殿や施設のすべてが破却された。「世の立替え・立直し」という教義が国体の変革を目指すものとみなされたのだが、天皇親政・皇道主義を唱えていた大本を、国家権力はなぜ恐れたのか。

 「昭和神聖会はかなり国粋主義的ですが、同時に力を入れていた人類愛善会の運動では、諸宗教の根元と目的は同一であるとして、全人類の幸福と普遍的な平和主義を追求していた。ナショナリズムと国際主義が共存していたところがすごい。しかし、巨大になりすぎたのでしょう。昭和になってからテロが相次ぎ、五・一五事件も起きている。大本の信者には軍人も多く、国家改造というスローガンで軍部と連携するのを恐れたのだと思います」

 本書では、この教団を抹殺しようとする内務省や特別高等警察(特高)の動きをめぐる記述に力が入る。背景に今年七月に施行された「共謀罪」法(改正組織犯罪処罰法)への懸念があった。川村さんは「共謀罪は稀代(きたい)の悪法である治安維持法と重なります。これから監視国家が作り上げられていく。戦前、大本の信者たちは特高の監視と弾圧にさらされましたが、それが一般市民に向けられるのではないか」と危惧する。

 ミネルヴァ書房・四一〇四円。 (後藤喜一)

 

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