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【書く人】

罪責感、抱いた暮らし 『息子が人を殺しました 加害者家族の真実』 犯罪加害者家族支援NPO理事長・阿部恭子さん(40)

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 警察庁の統計によると、二〇一七年一〜十一月の刑法犯認知件数は約八十四万件。殺人など凶悪犯は約四千件、窃盗犯は約六十万件に上り、その一件一件に被害者と家族がいるのだが、加害者にも同様に家族がいるという事実は見落とされがちだ。事故など不注意で人をあやめることも。夫や妻、そして子がある日突然逮捕されるという悪夢は、誰の身にも起こりうる。

 警察の厳しい事情聴取、マスコミにも追い回され、悪質な宗教に狙われる−。十年前から活動する日本初の犯罪加害者家族支援団体「World Open Heart」(仙台市)の理事長が、千二百件以上の相談を受けた経験を基に、加害者家族が直面するつらい状況を一般に向け初めてつまびらかにした。「真実はそのままに、相談者が特定されないよう、かなり気をつかった。専門家向けは二カ月あれば書けますが、これには一年かかってしまいました」と振り返る。

 中学生時代からマイノリティー(少数者)に関心があり、東北大の大学院生時代に行政も手を出しにくい加害者家族の支援を思い立った。東日本大震災を機に「生き残った自分にしかできないことを」とはちまきを締め直し、NPO法人格を取得。弁護士、社会保険労務士、不動産業者ら専門家と一緒に相談に乗り、加害者家族が語り合う会を定期的に開くほか、裁判の傍聴や被害者への謝罪に付き添う。相談の多くは、容疑者の連行がよく行われる早朝に寄せられ、起床の前に受けたこともある。

 支援を重ねて見えてきたのは、加害者家族の多くが平凡に暮らし、罪責感から何とか適切な対応をしたいと悩む、ごく普通の人たちだということ。それが、結婚や就職で不利益を受け、学校ではいじめられ、加害者本人以上の責め苦を強いられる。「ある相談者によると、周りが全て敵に見えたそうです。責任のない家族はもちろん、法的・道義的責任を逃れられない家族にも、それを果たしうる安定した生活が必要です。職を失えば賠償も難しい」

 追い詰められた加害者家族に「他の例を参考に、打つ手はあると伝えることで生きる力を取り戻してほしい」と願う。加えて差別や偏見を生む無知を解消し、活動をやめてもいい社会になれば、とも。いずれも鍵は情報発信。本書を出した一番の動機だ。

 幻冬舎新書・八六四円。 (谷村卓哉)

 

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