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【書く人】

SFで問いと向き合う 『ゲームの王国』(上・下)作家・小川哲さん(31)  

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 芥川賞作家の円城塔さんや三島賞を受賞した宮内悠介さんら、SF出身の作家が越境的に活躍する例が目立つ。そのSF界にまた一人、大型の新星が現れた。

 デビュー二作目にして約二年がかりで書き上げられた上下巻の大作。描かれるのは、まず一九七〇年代のカンボジア社会だ。処刑や飢餓、強制労働などで百万〜二百万人の死者を出したとされるポル・ポト政権時代を背景に描きつつ、ポル・ポトの隠し子とうわさされる少女ソリヤと農村に生まれた神童ムイタックの二人を軸に、ボーイ・ミーツ・ガールの物語が展開する。

 これがSF小説だということを忘れて読み進んだ読者は、下巻へと移って驚くだろう。物語は二〇二〇年代のカンボジアに飛び、政治家となったソリヤと大学教授のムイタックが対峙(たいじ)する、近未来SFへと変貌を遂げるからだ。

 「もともとポル・ポト政権下のカンボジアが書きたくて、どうすればSFになるか悩んだ末の結論でした」と執筆の経緯を明かす。「上巻と下巻で別の本として売り出す案もあった」ほど、読み口の異なる二つの世界を力業で接続させた筆力は新人離れしている。刊行後、SF以外の小説誌から執筆依頼が相次いだという話にもうなずける。

 二〇一五年に『ユートロニカのこちら側』でハヤカワSFコンテスト大賞を受賞し、デビュー。こちらは近未来の米西海岸の人工都市を舞台にした連作短編集だ。高度な監視社会の功罪を描き、著者の問題意識が伝わる。

 東京大学大学院博士課程に在籍。「人工知能の父」と呼ばれた英科学者チューリングを研究するかたわらデビュー作を執筆した。なぜSFだったのか。「僕にとって、SFの魅力は問いから逃げないこと」と熱弁する。「文学で扱われる問いのほとんどは答えの出ないもの。SFという文芸には詩情や叙情的なものに逃げることなく、現実には存在しない小道具を用いたり、歴史を改変したりしてまで、その問いに正面から向かい合う力がある」

 その姿勢を保ちつつ、今後はSFに縛られない作品も発表するつもりだ。「コスパ(コストパフォーマンス)の悪い作家でありたい。いろんな本を読み、知識を得て、苦労しながら密度の高いものを書いていきたいです」

 早川書房・各一九四四円。 (樋口薫)

 

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