東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > Chunichi/Tokyo Bookweb > 書く人 > 記事一覧 > 記事

ここから本文

【書く人】

支えてくれた恩返し 『わたしの本棚』 女優・作家 中江有里さん(44)

写真

 人生の大事な節目に読んだ本について、その時々の記憶とともにつづった自伝的読書エッセーだ。<読むことと人形遊びが楽しい、そんな平和な生活が、ある日終わった。/両親が別れることになった>。子ども時代をこう回想しながら最初に紹介した本は、当時共感したエクトール・マロの『家なき子』。「ここから書かないと何も書けないなと思ったので。本がすごく切実なものになったのが、この時でした」

 高校一年の十五歳の時に仕事を始め、高校は四校を渡り歩いて、三十代で通信制の大学へ。そこで得たものに思いを巡らせながら、卒論に選んだ作家・北條(ほうじょう)民雄の『いのちの初夜』にも触れている。

 本は今も切実な存在なのだろうか。「今は、書評を書いたり本をご紹介したりすることが仕事の一つにもなっていて、それを大きな使命と感じているんですよね」。そのきっかけは「やっぱり、児玉清さんとの出会いがあったから」。戦時下の少年時代や仕事がうまくいかない時、本が大きな支えになったという児玉さんの話を読み、本人からも聞いてきた。「児玉さんはずっと本を応援されてきた。私も自分が何者でもなく、まだ何もしていなかった時に本がすごく支えになったので、恩返ししたい気持ちがあるんです」

 テレビドラマや映画など、さまざまな娯楽がある中で「本はその土台になってきたと思う」と話す。「土台が失われたらその上にあるものが揺らぐんじゃないかなと思うんです。だから、大事にしたい」

 二十四冊を挙げた最後は、カズオ・イシグロの『わたしを離さないで』。「インタビュー記事に、この作品に三度挑戦してるって書いてあって、カズオ・イシグロでも一回で書けるわけでないことに励まされました。一つのものができるまでのこともまた、物語。私が物語をすごく好きなのは、そこにはめ込むことによって現実に起きたことや自分を客観視できて楽になるから。一つのことを引きずってその悲しみの中にずっといるんではなくて、抜け出すことができる」

 ある日、幼少時からの自分の写真を表紙に並べた本が夢に現れて、そのイメージを形にするような装丁にした。昭和の風情を残す写真の少女の、まっすぐなまなざしも印象的だ。

 PHP研究所・一五一二円。 (岩岡千景)

 

この記事を印刷する

PR情報