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【書く人】

圧力に負けぬ生き方 『不死身の特攻兵 軍神はなぜ上官に反抗したか』 作家・演出家 鴻上尚史さん(59)

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 一読して、何よりもその伝えたいという著者の衝動に驚かされた。太平洋戦争で特攻兵として九回出撃し、九回とも生きて帰った人がいる。佐々木友次(ともじ)さん。その生涯をまとめた。

 存在を知ったのはあるノンフィクションのわずかな記述がきっかけ。「こんな日本人がいたのか」。衝撃を受けたが、亡くなっていると思い込んでいた。間違いだったと知るのは六年後の二〇一五年。旧知のテレビ局プロデューサーの取材により札幌で入院していることが分かった。

 アポも入れずに現地へ飛んだ。案の定、転院していた。何とか長男を見つけ出し面会を申し入れる。断られた。それでも再び札幌へ飛んだ。「病室で帰れと言われても良かった。とにかく会いたかった」

 佐々木さんは一九四四年、陸軍の第一回特攻隊に選ばれた。だが、敵艦への体当たりを拒み、爆撃を試み続けた。参謀は「必ず死んでこい」と激怒した。やがて援護も付かず単独で出撃を命じられるように。それでも「死ななくてもいい。死ぬまで何度でも行って、爆弾を命中させます」と、信念を曲げなかった。

 鴻上さんは「日本人とは何かをずっと考えてきた」。前著『「空気」と「世間」』では、空気を読み、忖度(そんたく)する日本社会の宿痾(しゅくあ)を考察した。「佐々木さんはどうして時代の同調圧力にあらがえたのか」

 病室で対面した佐々木さんは取材を受け入れてくれた。翌年九十二歳で亡くなるまで計五回話を聞いた。並行して文献を読みあさり、命令した側が「統率の外道」と認識しながらずるずると続いた特攻の実像まで踏み込んだのが本書だ。

 その取材を通じ「佐々木さんは今の日本人の希望になるんじゃないか」と痛感した。問題があると気づきながら、周りの顔色をうかがって、何も言い出せない。与えられたものを甘んじて受け入れるのが美徳。そんな日本社会でもがいている人は、会社にも教室にもたくさんいるはずだ、と。

 本書に先立ち、昨年八月に『青空に飛ぶ』という小説を刊行した。いじめに苦しむ中学生が、佐々木さんと出会うことで立ち向かう勇気を手に入れる。二本立てでの執筆を試みたのは「少しでもたくさんの人に佐々木さんを知ってほしいと思ったからです」。

 講談社現代新書・九五〇円。 (森本智之)

 

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